「揺さぶられる感情」ゴールド・ボーイ U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
揺さぶられる感情
どう書き記せはいいだろうか?
ここでレビューを書くようになって初めて⭐︎6を付けたいと思った。
貪るように観てた。
次は?これこっからどうなんの?どうするの?荒れ狂う海に翻弄される小舟のような状態だ。酔いしれた。魅了された。なんてものを観てしまったのだろう。
冒頭とラストの戦闘機のジェット音が耳に残る。あの音を聞いた時、俺は何を植え付けられたのだろうか。
クライムサスペンスなのは間違いない。
ないんだが、筋を素直に追わせてくれない。
途中で何を見せられてんだと困惑する。
13歳の純情がそうさせるのだろうか?今にしか残せないものを見せられてるような気になる。
どうやら韓国がオリジナルらしく…流石に唸る。
舞台を沖縄にしたのも、きっと意味があるのだろう。物語が始まれば沖縄のロケーションなど、そこまで意味を持たないはずなんだけど、冒頭に聞こえたジェット音が、沖縄を剥がさないような印象。
メインキャストがとにかくハマりまくってて…子供ら3人は元より岡田氏も、その奥様も、江口氏さえ抜群だった。
特に子供は…アレはなんだ?
どう形容すればいいんだ?
絶品だった。
異常さも信念も儚さも危うさも馬鹿さも幻想や理想も、本作に必要な全てを装備してた。
監督はどんな魔法をかけたのだ?
カメラマンは何を切り取ったのだろうか?
何一つ途切れる事がなく、むしろ作中に引き摺り込まれる。
物語はセンセーショナルな幕開きで、婿養子が義両親を崖から突き落とすシーンから始まる。もう岡田氏の独壇場だ。めちゃくちゃ悪人だ。
彼の計画では、次に妻を殺し、グループと財産を乗っ取る計画だったのであろう。この妻も夫に離婚を切り出しており、その理由が「好きな人が出来たから」とシレッと喋るような人でなしではある。
その首謀者である岡田氏を彼らは強請る。
13歳の少年達が無慈悲な殺人鬼と交渉するにあたり、一歩も引けをとらない。
また、その状況に納得させられてしまう。
過分にキレる頭脳と眼力の強さに射抜かれる。
コイツだけは他と違うと説得された。
少年達の背景も興味深い。
兄妹が置かれてる状況は袋小路だし、ヒロインの葛藤は悲劇的に描かれる。案外ややこしい状況なのにスッと入ってくる。兄の波及効果だと思われる。
この兄が、べらぼうに上手い。
もう異常な程に上手い。
彼が澱みなく、息をするかのように芝居をするから、後の2人の朴訥だったり素っ気なかったりする芝居がキャラに見えてくる。そういう子に見えてくるのだ。
物語的には添え物のような役所だったけど、彼が居なければ、こんな感想にはならなかったと思う。
6000万っていう脅迫で口火を切ったクライムストーリーはゴロゴロと坂を転がり、実の父親と再婚相手の殺害って真相に辿り着く。
たぶん途中で目的が変わったんだと思う。
この転換が秀逸で…それまで冷静だった彼が感情的になる。その牙に押しきられた。
殺害計画が決まり、決行の前にヒロインは「デートをしてほしい」って切り出す。
このシーンをどおいう感情で観ていいのか分からない。もうぐっちゃぐちゃだ。
とても微笑ましいのだけれど、殺人計画の前日譚なのだ。人を殺す重大さとか、その代償とか色々渦巻くはずなのだけど、それを凌ぐ感情があって…おそらく初恋だろう。13歳なんだもの。
彼と彼女にはその日しかないのだ。
恋に100%浸っていられるのはその日しかない。彼女はきっとそうだったんだろうと思う。
タネ明かしは怒涛だった。
一連の事件のカタはつき、淡い初恋をかなぐり捨てた少年の一人勝ちかと思った矢先にもう一波乱。
封筒の差出人を見た時、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。「何が書いてあるんだ?この作品は結末を有耶無耶にするんではなく、逃げないんだな」と思った。
手紙は少年の完全犯罪を覆す内容だった。
それを知った母親をついでのように殺そうとする少年。あんな無慈悲な包丁の取り方って…ゾクリとする。黒木さんはやっぱ流石であった。
拍子抜けな理由で母親殺害をやめる少年。何事もなかったように買い物に出かける。
泣きじゃくる母親の手に握られた携帯。通話中であり7分46秒の通話時間。
彼が殺害を決意するまで7分もかかってない。
沖縄の照りつける太陽の下を歩く少年。
横断歩道で刑事に出くわす。その手に握られている携帯電話。
初めて見せる少年の追い詰められた表情。
背景に飛んでいく戦闘機とジェット音。
刑事と対峙する少年の頭脳は、おそらくフル回転だったのだろう。
エンドロールが流れる中、席を立てなかった。
余韻にずっと浸ってたかった。
最後に刻印される「ゴールデンボーイ2」の文字。
「えっ、嘘だろ…?」
その「2」が「?」に変わる。
どこまで楽しませてくれるんだ、本作は。
もうあるかどうかもわからない「ゴールデンボーイ2」の展開が俺の頭の中を駆け巡る。
いやぁ…凄かった。
今まで感じた事ない没入感だった。
本作に関わった全てのクリエーター達に拍手喝采。濃密な奇跡のような時間を提供してくれた事に感謝してもしきれないのである。
もう「2」とかはやんなくていい。
本作ほど、鮮烈な印象は残せないと思うから。
面白かったぁぁぁぁぁぁああっ!!
U-3153さん
コメントへの返信を頂き有難うございます。
畳み掛けるような終盤の展開に、館内が明るくなって尚暫く声を発してはいけないような、そんな感覚に陥りました。
仰る通り、蛇足になってしまうかも知れませんね。