満江紅 マンジャンホンのレビュー・感想・評価
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こんな張芸謀映画はこれまで見たことがない!
こんなチャン・イーモウ(張芸謀)映画はこれまで見たことがない! といっても過言ではないほど、その面白さと新たな美学に打ちのめされました。
脚本完成までに4年の歳月をかけたという、その綿密に練り上げられた脚本力もあり、冒頭からラストまで息つく暇もなく、目が離せません。主な舞台は南宋の宰相廷内。謎や陰謀をめぐって、まるでマスの目の迷路のような廷内を蟻のように行ったり来たりする武将や兵士たちを俯瞰や手持ちカメラ、ドリー撮影でイーモウ監督は縦横無尽に緩急をつけてリズミカルに捉えていきます。緊迫感に満ちていながらどこか滑稽な展開が観るものを惹きつけて離しません。
主人公たちそれぞれが生き延びようと陰謀と策略をめぐらすのですが、先の予測できない展開が連続していきます。人間は生き延びるためなら何でもする。必死になればなるほど、サスペンスでありながら喜劇の様相を呈してくるのが本作の大きな魅力となっています。
そしてクライマックスに向け、陰謀や策略が明らかになっていくにつれて浮かび上がってくる主人公たちの本当の想いに、いつしか胸が熱くなります。
お金を掛けて、ある程度真面目に作った某監督作品のよう
【イントロダクション】
約45億元(約900億円超)の興行収入を記録し、2023年中国興収第1位となった歴史サスペンス・コメディ。
南宋時代の伝説の武将・岳飛の遺詩を巡って繰り広げられる忠義と裏切りを描く。
出演は、アイドルグループ「TFBOYS」のメンバーであるイー・ヤンチェンシーと、コメディアン、俳優のシェン・トンによるW主演。
監督・脚本は、『HERO』(2002)、『グレート・ウォール』(2016)のチャン・イーモウ。その他脚本に、チェン・ユー。
【ストーリー】
12世紀の中国、南宋時代。南宋の伝説的武将・岳飛は、北方の強国・金との戦いに度々勝利し、英雄として讃えられていた。しかし、岳飛がこれ以上の勢力を持つ事を恐れた南宋の宰相・秦檜〈しんかい〉(レイ・ジャーイン)は、彼を反逆者に仕立て上げて謀殺した。
4年の月日が流れ、秦檜は金との和平交渉に臨む。しかし交渉前夜、金の使者が暗殺され、南宋の皇帝に渡されるはずだった密書も消えてしまう。事態の解決を図るべく、若き武将・孫均〈そんきん〉(イー・ヤンチェンシー)と下級兵士・張大〈ちょうだい〉(シェン・トン)は秦檜から「夜明けまでの2時間の内に犯人を見つけよ」と命じられる。
手掛かりを求めて宮廷内を探し回る孫均と張大。忠義と裏切りの渦巻く巨大迷路のような宮廷内で、次第に巨大な陰謀が明らかになっていく。
【感想】
「せっかくの“映画の日”なのに、何も観に行かないのは勿体ない」と、急遽本作の鑑賞に踏み切ったのだが、正直、個人的には合わなかった。
迷路のような巨大な宮廷内を、中国語のラップミュージックに合わせて孫均達が駆け回る姿、その様子を真上から捉えたショットはコミカルで面白くはあるのだが、流石に激しいアクションもなく誰が裏切るか、真相は何なのかについて会話劇を中心に二転三転するだけの内容で2時間半越えの長尺を鑑賞するのはキツかった。二転三転する内容も、地味な会話劇やベタなコメディ演出の流れで判明していくので次第に飽きが来て平坦に映り、後半は「もういいから、結局真相は何なのか早く明かして終わってくれ」と願いながら観ていた。
尺が2時間程で収まっていれば、もっと評価出来たであろうだけに、勿体なく感じた。
岳飛の詞については、日本でも古典の教科書にも載っている程の有名な詞(少なくとも、私が高校生時代には載っていた記憶がある)であり、その意味を改めて知るには良かった。
しかし、これは日本ならではの感覚であろうが、ベタなコメディ演出に加えて、孫均役のイー・ヤンチェンシーの髭を蓄えた姿は、俳優の松山ケンイチと永山瑛太を足して2で割ったような印象を受けるし、張大役のシェン・トンはムロツヨシ、何立役のチャン・イーは大泉洋に見えて仕方なかった。
そう、キャストやノリだけで言えば「お金を掛けて割と真面目に撮った福田雄一監督作品」に見えてしまうのだ。
私が福田雄一監督作品に対して快く思っていないのは、スコア表記を低い順に設定して確認していただければ明らかだろうが、早い話、私には本作がそのような作品に見えてしまったのだ。
とはいえ、流石に二転三転して裏切りが繰り返される脚本は、演出はともかくそれ自体は面白くはあった。
クライマックスで判明する秦檜の影武者の存在も、「これほどの立場の人物なら、影武者くらい居るだろう」という予想は当たったが、臆病者の秦檜の代わりとして重要な局面を経験し続けて来た影武者である彼(岳飛の詞すら、目にしていたのは影武者だった)が、最早真の秦檜と言っていい程秦檜として振る舞って生きており、所詮秦檜は岳飛を恐れた哀れな小物に過ぎないとする落とし所も良かった。
【岳飛 満江紅】
パンフレットに記載されている解説によると、「満江紅」とは作品名を指すのではなく、「詞(ツー)」という音楽の旋律に合わせて詠う長文の句のメロディの一つなのだという。岳飛がこれに自らの意思を当て嵌めて作った詞があまりにも有名となった為、満江紅といえばこの詞を指すようになったのだそう。
クライマックスで、自らを貶めた秦檜が声高らかにこの詞をそらんじる姿は、彼が影武者でしかなかったというオチ含めてなんとも皮肉であると同時に圧巻である。
〈原文〉
怒髮衝冠,
憑闌處、
瀟瀟雨歇。
抬望眼、
仰天長嘯,
壯懷激烈。
三十功名塵與土,
八千里路雲和月。
莫等閒、
白了少年頭,
空悲切。
靖康耻,
猶未雪。
臣子憾,
何時滅。
駕長車踏破,
賀蘭山缺。
壯志饑餐胡虜肉,
笑談渇飮匈奴血。
待從頭、
收拾舊山河,
朝天闕。
〈現代語訳〉
憤怒のために髪が逆立ち、冠を突き上げるほどだ。
欄干に身を寄せて、
激しい雨が止んだところに。
頭を上げて遠方を見わたす。
天を仰ぎ、声をあげて、心の奥底に溜まった鬱懐を出せば、雄々しく、激しい感情が込み上げてきた。
私が三十余歳(岳飛の当時の年齢)までに立てた功名と功績は、小さな取るに足らないものだ。
これまでの昼夜問わず、八千里の長征への激しい戦い。
急がなければ、この少年の頭はすぐに白くなってしまう。
空しく、悲しみが刃物のようにぴったりと肌に密着しているようだ。
「靖康の変」の恥辱は、まだ雪(そそ)がれていない。
臣下としての無念は、いつになったら晴らせるのか。
戦車を駆り、賀蘭山の難所を越えて敵地深く攻め入ろう。
この勇ましい志のために、飢えたら敵の肉を食べ、談笑して喉が渇いたら敵の血を飲んでやる覚悟だ。
全てをやり直して、かつての国土を回復し、朝廷に勝利の報告をしようではないか。
【総評】
岳飛の遺詩を元ネタに、宮廷内に渦巻く忠義と裏切りを描いた本作は、なるほど本国で絶大な支持を得て特大ヒットを記録したのも頷ける。しかし、私の肌には合わず、キャスト陣のビジュアルが日本の俳優に似て見える点含めて、某監督作品を鑑賞しているかのような感覚の域を出る事はなかった。
ある意味、怒髪が天を衝くのは、私の方である。
二転三転! ミステリー時代劇
「満江紅」というのは岳飛が残したとされる詞とのことで、それが物語の重要な要素となっている。一応歴史を背景としてはいるが、映画のストーリー自体は全くのフィクションで、実在の人物も秦檜しか登場しない。また史実とは微妙に変えていて、実際には岳飛が処刑された年に金との和睦が成立しているし、近年の研究では異論も出ている秦檜や岳飛の人物像についてもあくまで中国人の抱く一般的イメージに沿った描写となっている(日本で言えば忠臣蔵みたいな感じだろうか?)。なお「満江紅」も現在では岳飛の作ではないという説もあるそうだ。
それはそれとして、映画はなかなか面白かった。とにかく2時間40分の長さを全く感じさせないのがすごい。多数の人物が登場する群像劇的なミステリーでコメディとシリアスがほどよくミックスされた映画になっているが、その数多くの登場人物たちの命がまるで虫けらのように次々とあっけなく殺されていくところに権力や封建社会の非情さと非人間性が表現されているように感じた。さらにそこにご都合主義や甘さは存在しないとでもいうかのごとく、まさかこの人は普通の展開なら死なないよね、というような人までもがあっさりと死んでしまう。安易なハッピーエンドは決して描かれない。それでいて最後までエンタメ要素やコミカル風味を失わずに、英雄賛美を謳いながらある種の救いのようなもので締めくくられている。中国ではチャン・イーモウ監督最大のヒット作となったそうだが、そのような忠臣蔵的わかりやすさにその要因の一端があったとの指摘もされているようだ。
トップクレジットの主演俳優シェン・トンはさすがの名演で、顔がムロツヨシそっくり。確か以前も中国映画の主演俳優にムロそっくりの人がいたなと思い出したが、そっちは『薬の神じゃない!』のシュー・ジェンという別の人でした。実は写真とかで素顔を見るとどっちもそんなにムロに似てないんだけどね。その他の俳優たちも全員が素晴らしい演技派ぶりだが、『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』『崖上のスパイ』で主演したチャン・イー以外はさすがに僕も知らなかった人が多い。芸達者な演技派俳優やコメディアンばかりを集結させたと思しきキャストは本国では人気俳優ばかりなんだろうが、日本人から見るとよく知らない地味な面子なので観客に対するアピールに欠けるのも確かで、それと2時間40分という長さとが上映館数の少なさに影響した可能性もある。主演の1人ながらあくまで2番手のイケメン俳優イー・ヤンチェンシーを押し出してるのもそのためだろう。
ただ、面白いことは面白かったんだが、このようなどんでん返しが何度も起きストーリーが二転三転するチャン・イーモウの映画はすでに『SHADOW 影武者』『崖上のスパイ』と近年に2作も観ていて、さすがに3度目ともなるとまたかよとも思わなくもない。また近年のチャン・イーモウ映画は、上記2作にしても『ワン・セカンド』にしても本作にしても全部男性が中心の物語になっていることに少々の物足りなさを感じる。チャン・イーモウといえばかつてはコン・リーやチャン・ツィイーやチョウ・ドンユイといった魅力的な新進女優たちを主演に据えた女性映画をもっぱらに撮ってきた人だけに、いかに映画の出来が良かろうとも女優が主軸の映画ではないことに一抹の淋しさを感じてしまうのだ。もちろん長年のキャリアの中でチャン・イーモウは絶えず作風を変化させてきた監督だということも承知してはいるが、それでもやはりなお。本作でも映画初出演という妓女役の新進女優ワン・ジアイーが出色の演技を見せていて、さすがは女優発掘王チャン・イーモウと思わせてくれるし、彼女の役どころにチャン・イーモウのロマンチシズムがよく表れてるとも言えるのだが。
監督はおそらく最後のこのシーンだけが撮りたくてこの映画を作ったのでは? 兵馬俑(へいばよう)のような数千 数万の兵士がこの 満江紅 の漢詩を空にとどろく大声で 一斉唱和。
劇中いっさい音楽使わず、京劇の男声歌唱法にとどめ武場楽器で統一。
日本なら きやり唄(木遣り)が全編流れるような新しいアイデア使ってみたかったんじゃネ?
人気レビュアーの 「カール@山口 」さんのレビューを先に読んでから見るべき!だった。
予習してみる?はじめ寝落ちしてしまうゥ日比谷シャンテシネマ。
主人公は誰かがムロツヨシと言ってたけど、むしろ 中山一也 を思いだした。
ヴェネチア映画祭2004で 中山麻里さん(享年77)と三池監督と一緒に撮った写真があったっけ。
あんなアバンギャルドな俳優がまだ日本に埋もれているのか残念。
「探偵物語」中山一也
この マンジャンホンの漢詩の印刷されたシオリがもれなく貰えだけど 。。
しかし タイトルワードが、検索しづらいので 動員数伸びないのが三たび残念。
サブ主演 高橋大輔
脇役悪徳代官 クロちゃん 、あともうひとり誰?
ラスボス役 肺気腫か肺カルチの 酒渣でない古田新太
ムロツヨシに似た俳優が出ているコメディ、最後はシリアス
75歳でこの作品!恐るべしチャン・イーモウ
素敵なレビューに惹かれて遅まきながら鑑賞しました。
観てよかった!
もう、メッチャクチャ格好いいです。
古典的なテーマと斬新な映像のマッチングは観客の度肝を抜きます。
迷路のような城内を移動する武人達の鎧の音に被せるポップな音楽。
二転三転どころか四転五転する権謀術数渦巻く世界に幻惑されます。
シーンが変わるたびに「えっ!」「えええっそうなの!」「えっそんなこの後は…」と観客も右往左往。
そしてカタルシスに満ちたラスト。
満江紅も岳飛も知らなくても大丈夫。テーマは重要ではないと思います。
映像とトリックで史実が背負った人々の思いの丈を語りたかったのではないかと、多分これは岳飛の話ではないです。チャン・イーモウ監督が中国の若い世代に送るメッセージではないかと思いました。
お勧めです。
疲れました。
目的を達成するためには、味方すら
中国人の琴線がわかる
シェン・トンは中国のムロツヨシ
この映画は張芸謀の代表作の一つになる
登場人物たちの騙し騙されの心理戦は、前作の「崖上のスパイ」でやったスパイものさらに深化させた形で非常に引き込まれました。
今回、ストーリーもさることながら、冒頭の兵士が歩いてくる姿を上から撮ったシーンがかっこよくて、いきなり心を掴まされました。また、途中城内を行き来するときにかかるラップ?がとてもかっこよく、画的にも音楽的にも非常にかっこいいです。(移動シーンがこの映画の肝といってもいいかもしれません。)さらに、ときおり入るコメディ要素も小気味いいです。近作ではあまり見られませんでしたが、張芸謀はコメディも得意だったことを思い出しました。
張芸謀の時代劇ものは、ただ派手なだけという印象であまり好きではなかったですが、これは傑作でした。約2時間半ほどの長い映画ですがまったく長さを感じませんでした。
黒い鳩
裏切りと策略がすぎて置いてけぼりをくらう。
この時代の史実に詳しい人であれば楽しめるのかもしれないが、疎い私には何が何だかさっぱりでついて行けない。
もちろん史実を題材にした映画はたくさんあるし、知識が有ろうか無かろうが、映画内で説明されようがされて無かろうが、普通ある程度は理解して観れるものだ。
しかし本作はあまりにも裏切りと策略が過ぎて、こちらとしては雰囲気に身を委ねて観るしか術がなくなってしまう。
こうなると感情移入は出来ないし、各キャラクターの行動にも理解が追いつかない。
途中からはドタバタやってる主要5人がムロツヨシ、永山絢斗、佐藤二朗、大泉洋、永川あさみにしか見えなくなり、チャン・イーモウでなく福田雄一か三谷幸喜の映画を観ている気分になってしまった。
上記の人達に対して何の他意もないが、この映画に置いてけぼりをくらって考えが別の表面的なところにいってしまった次第だ。
こうなってしまったら最後に壮大に盛り上げられても気持ちは追いつかない。
とにかく同じ事をガチャガチャしつこく繰り返していて単調であるのは間違いない。
満江紅(マンジャンホン)
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