「鑑賞直後「さすがチャン•イーモウ」と気分が上がったけど 時間とともに「彼は昔の彼ならず」感がひたひたと押し寄せてくる件」満江紅 マンジャンホン Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)
鑑賞直後「さすがチャン•イーモウ」と気分が上がったけど 時間とともに「彼は昔の彼ならず」感がひたひたと押し寄せてくる件
私が香港映画ではない「中国映画」というものを鑑賞し始めるきっかけを作ってくれたのが他ならぬチャン•イーモウ監督でした。彼は今世紀に入ってからは北京で行なわれた夏季冬季それぞれの五輪の開会式/閉会式の総監督を務めるなど、もう一映画監督の枠に収まりきらない「巨匠」として映画界に君臨しています。この『満江紅』は2023年の作品で興行収入が日本円に換算すると900億円超という大ヒットになったそうな(まあ中国は日本の約十倍の人口ですからね。こういう数字は文字通りの「ケタ違い」になります)。
で、観てみると、やっぱり、面白く大満足でした。コメディあり、シリアスあり、サスペンスあり、アクションあり、その他もろもろな要素がてんこ盛りの絢爛豪華な幕の内弁当といった感じ。
舞台は12世紀の中国です。南宋王朝は北方の女真族の金王朝と激しい戦いのさなかにありました。金に奪われた領土の回復を目指して戦った岳飛(この武将は中国の歴史上でもっとも人気のある英雄と言っていいと思います)が謀殺されてから4年、南宋の宰相 秦檜(岳飛を謀殺した黒幕で後世では「売国奴」と呼ばれる国民的不人気キャラ)は金との和平交渉に乗り出します。ところが、南宋への密書を携えた金の使者が何者かに殺され、密書の行方もわからなくなります。といったところから始まる物語です。
私は、岳飛は同じ12世紀の人でいくさにめっぽう強かったけれど勢力が強くなるのを恐れられ謀殺された悲運の武将ということで、日本で言えば、源義経みたいな印象を持っていました。両者とも歴史上の英雄として人気が高いという共通点もありますし。でも、義経が源平の戦いという、いわば国内内戦での英雄であるのに対し、岳飛は北方の女真族との戦いで力を発揮したので、漢民族の皆さんには特別な思い入れがあるのでしょうね。あと、岳飛には武人としてだけでなく、文人としての側面もあり、この映画では彼の残した詩が大きな意味を持つことになります。
さて、物語は中盤以降、ドンデン返しの連続みたいな感じになります。話が二転三転どころか四転も五転もするような感じで物語の行方に釘付けとなります。そして、ドキドキしながら大団円、感動のうちにエンドロールと続き、終わって劇場内の照明がつくと、あー、よかった、大満足、さすがチャン•イーモウとなるわけですね。でも鑑賞直後の大興奮はどこへやら、時間がたってくるにつれ、まあ、確かにチャン•イーモウの晩年の代表作と言われるようになるかもしれないけど、彼のフィルモグラフィの中で燦然と輝く傑作かと問われれば、そうでもないよなと興奮がさめてきます。ドンデン返しの連続もなんだか浅くて薄い感じだったよな、陳腐な感じもするし…… 序盤に出てきた密書の話は映画用語でいう「マクガフィン」だったと思いますが、それにしても、それを序盤から中盤にかけて引っ張りすぎで前半が冗長だったなとかの構成上の問題点を思い出したりもします。まあよくできたエンタメで、かつ、いつものようにとても美しく撮れているのですが、例えば、コン•リーが主演した彼の最初期の三部作と比べてどっちが好きかと問われたら、私は間違いなく最初期のほうと答えると思います。
ということで、この『満江紅』はそれなりの予算をかけ、国民的な英雄である岳飛の詩をモチーフとして、中国の観客に媚びているようなところが鼻につく感じです。巨匠もたいへんですなあ。あと、彼は過去の作品のコン•リーやらチャン•ツィイーやらの例でわかるように女優を美しく見せて上手に使うのに長けていると思うのですが、今回はそれほど目立った女優がいなかったような。そう言えば、一昨年に観た彼の前作の『崖上のスパイ』は1930年代の旧満州を舞台にした作品で、雪景色はきれいだったけどストーリーはパッとしなかったなあ、おまけにラストが中国共産党万歳みたいでなんだかなあだったし、と思い返しながらも、モスクワで訓練を受け満州に潜入した4人組のスパイのうちのひとりで最年少の役をやってたリウ•ハオツンがやたら可愛いかったしなあと感慨にふけっておりました。
何はともあれ、まあいろいろと言いたいこともありますが、概ね満足いたしました。チャン•イーモウ監督の次作を楽しみにしたいと思います。あと、そこに出てくる「謀女郎(モウ•ガールズ)」が誰になるかも楽しみです。
《注》謀女郎(モウ•ガールズ): チャン•イーモウ監督の作品でデビューした女優たちを指す。コン•リー、チャン•ツィイー、ドン•ジエ、チョウ•ドンユイ、ニー•ニー、リウ•ハオツン等。まあ、段々とガールと呼べなくなる人が増えてくるとは思いますが。
