「パーソナルな思いが込められるも、夏が失われ…」異人たち 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
パーソナルな思いが込められるも、夏が失われ…
山田太一原作×大林宣彦監督の1988年作『異人たちとの夏』。
山田太一にとって自分を重ねた特別の作品であり、大林監督の名作の一つ。
情緒と郷愁。ちょっぴりのホラー。心鷲掴みにされるほど感じる日本の夏。
キャストの名演も含め、絶品。大林監督の作品の中でも特に好きな一本。
気鋭アンドリュー・ヘイのメガホンで、英リメイク。
基本設定は概ね踏襲。
マンションで暮らすシナリオライター。幼い頃に両親を事故で亡くし、孤独の身。
ある時途中下車した下町で…ではなく、幼い頃住んでいた家へ。そこで死んだ筈の両親と再会し…。
オリジナルでもそうだが、両親は大人になった自分をそのまま迎え入れてくれる。久し振りに実家に帰ったかのように。
こういうタイムスリップものでは不思議な設定だが、それが堪らなく魅力でもある。
失われた時が失われていなかったら…?
長かった空白の時間を埋めるかのように、幾度も幾度も通う。
大人になっても子供にとっては親。親にとっては子供。
短い共に過ごした思い出、孤独だった悲しみ、今の悩み、再会出来た幸せ…。
語り、思いを打ち明けるも、その日々は永遠ではなかった…。
日本から英ロンドンに舞台変更になっても、この儚さは日英共通。いや、万国に通じるだろう。
しかし作品はオリジナル忠実ではない。その他の設定がかなり大胆脚色されている。
まず大きな違いは、主人公アダムの同性愛設定。
オリジナルでは、風間杜夫演じる主人公が同じマンションに住む名取裕子演じる女性と惹かれ合うが、本作ではバリーという男性に。
バリーからのアプローチを当初は躊躇していたが、やがて受け入れる。
両親との再会、バリーとの愛。孤独だった日々から一転、愛する人たちとの蜜月に満ち足りた幸せを感じていたが…。
オリジナルの名取裕子の強烈インパクトほどではないにせよ、バリーにもある秘密が…。
一応は設定を踏襲しているが…、そもそも何故に同性愛設定…?
バリーと愛を育むが、母親は動揺。父親は幼い頃から薄々感づいていた。
同性愛の主人公が両親に打ち明け…な同性愛題材のドラマみたいで、ここだけちょっと趣旨が変わっているような…?
監督アンドリュー・ヘイが自身を投影。
監督も同性愛者。まだ同性愛が寛容ではなかった1980年代。その時代に成長した同性愛男性。悩みや両親との関係…。
原作者の山田太一も主人公に自分を重ねた。
自身と自身の過去に向き合う。趣旨は違うが、共通するものはある。
それは原作者にも響いた。山田太一は新たな視点に納得し、本作の公開のメドが付いてから亡くなったという。
昨今の日本のTVドラマ界のようなオリジナルへのリスペクト皆無の悪質な改変だったら問題だが、そういった思いが込められ、原作者も納得したなら問題ナシ。
アンドリュー・ヘイのパーソナルな思いを込めた演出。
アンドリュー・スコット、ポール・メスカル、ジェイミー・ベル、クレア・フォイの複雑繊細な演技。
映像も美しい。
だけど個人的に残念な点が。
やはりオリジナルのお盆という日本の夏の雰囲気は特別だった。それが作品を格別なものにしていたと断言してもいい。
本作でも監督が幼少時に住んでいた家を使用したり、おそらくイギリス人が見ればノスタルジーかきむしられる場所や描写もあるのだろう。イギリス舞台でこんな事言うのは野暮だと分かっているが、それでもやはり、
作品を思うだけでこみ上げてくる。堪らないほどの郷愁。下町の雰囲気。両親との思い出。何処からかひぐらしの鳴き声も聞こえる。儚さと共に、夏も終わり…。
この日本特有の味や旨味が損なわれていたのが残念だった。
本作も秀作レベルで悪くなかったが、どーかしてもいいくらい心惹かれるオリジナルには及ばなかった。
こんばんは
共感ありがとうございます。
オリジナルの原作・監督の大林宣彦監督
そして風間杜夫に名取裕子、みんな良過ぎましたよね。
浅草なんか知らないけれど、本当に懐かしい日本のお盆でしたね。