劇場公開日 2024年10月11日

「率直に言えることは、エピソードを詰め込みすぎで、何を伝えたいのか主題がぼやけてしまいました。」若き見知らぬ者たち 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0率直に言えることは、エピソードを詰め込みすぎで、何を伝えたいのか主題がぼやけてしまいました。

2024年10月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

 『佐々木、イン、マイマイン』(20)が評判を集めた内山拓也監督が日本、フランス、韓国、香港合作で手がけた商業長編デビュー作。語り口は辛辣でも、全てを包む温かなまなざしを感じさせます。あらゆる理不尽にまみれても、自分の正義を守り懸命に生きようとする、名もなき人々の魂の叫びをスクリーンに焼きつけました。

●ストーリー
 風間彩人(磯村勇斗)は、亡くなった父亮介(豊原功補)の借金を返済し、 血管性認知症を患う母、麻美(霧島れいか)の介護をしながら、 昼は工事現場、夜は両親が開いたカラオケバーで働いています。借金返済に追われて精神的にギリギリの状態でした。恋人の日向(岸井ゆきの)や親友の大和(染谷将太)の支えで、何とか持ちこたえていたのです。
 若くして一家を背負った彩人はサッカー選手として将来を有望視されながら、夢をあきらめ、人生を家族にささげてきたのでした。
 そして弟の壮平(福山翔大)も兄と同居。父の背を追って始めた総合格闘技の選手となっても、同じく借金返済と介護を担いながら、練習に明け暮れる日々を送っていたのです。そんな息の詰まるような日常のなかでも、恋人である日向との小さな幸せを掴みたいという思いが、彩人のかすかな希望でした。しかし、大和の結婚を祝うつつましくも幸せな宴会が開かれた夜、思いもよらない暴力によって、彼らのささやかな日常がもろくも奪われてしまうのです。

●解説
 彩人の苦労がいつか報われてほしいという淡い期待は打ち砕かれ、事態は悪い方へと向かいます。現実世界もまた同じように理不尽で、不条理だからとでも言いたげな展開です。でも不遇続きの彩人を人生の敗者として描いてはいません。とっくに押しつぶされていてもおかしくないのに、彩人はたまに達観した態度で哲学的なセリフを吐くのです。納得できないことには毅然と筋を通してしまうこと。それがあだとなるのですが、強く、気高い人なのです。その存在感は物語から退場する後半に、より際立ちます。
 後半には、総合格闘技のタイトル戦に臨む弟・壮平に焦点が移り変わります。長回しで捉えた肉弾戦のシーンはほの暗く、乾いたタッチの前半と打って変わって、目もくらむ明るさ、むせ返る熱気です。
 彩人が望んでもかなわなかった若さと感情の発露として、壮平が屈強な肉体をリングで躍動させます。共演シーンこそ多くありませんが、磯村と福山が魂のバトンをつなぐ兄弟役を対照的なアプローチで演じました。弟が兄の人生を内在化したように、兄もまた亡き父親を慕い、面影を追いかけていたのです。心の中にいる絶対的ヒーローの存在、その鮮やかな交代劇は、爆発的なエネルギーが渦巻く内山監督の「佐々木、イン、マイマイン」とも通じます。

 日本を含めて四つの国と地域による共同制作。異論を力で封じ込める風潮や、前世代のツケを払わされることへの次世代の怒りが伝わってきます。国や言語を超えて共感を呼びそうなメッセージも声高には訴えません。フラッシュバックか。妄想か。時折、遊び心のある演出が差し挟まれて、後味も意外に軽やかです。

●主演磯村勇斗について
 インタビュー映像で、主演の磯村は、介護や家事を日常的に担う「ヤングケアラー」を演じる磯村は「社会の理不尽さなど、日々感じることとリンクすることが多い」と撮影を振り返りました。

 磯村はこれまで、知的障害者施設の殺傷事件が題材の「月」、特殊性癖者の孤独を描いた「正欲」など、近年、社会の問題を突く作品で難役に挑んできました。本作で演じる彩人は、若くして家族の呪縛にとらわれ、貧困と母親の介護負担にあえぐ。夢も等身大の幸せもあきらめ、生きながら死人のようです。「親の介護以外に意識を持っていけない。ただ息をすることしかできない。そこは彩人をやるうえで優先したところ」SNS社会で自己表現の場は表向き増えたように見えるが、「何かしたくてもできない。声を上げられないというところは結構、今の時代にマッチしている」。と語ります。

 俳優デビューから10年。作品ジャンルや主演、助演を問わない活躍ぶりですが、当初は脚光を浴びる同世代の活躍に焦りを感じていたそうです。「なぜ俺はそこにいないんだろうと思っていた。すごいな、なんか、むかつくな。自然と生まれるハングリー精神みたいなものは絶対なくしてはいけない」と強調します。自身の俳優としての強みを「普通なところ」と言いきります。「白いパレットでありたい。様々な色をのせて、作品ごとにカラーが変わっていく。普通は僕にとってはうれしいこと」

 そういう点で本作の彩人が抱える苦悩と希望の複雑な心境を磯村は演じきっており、当たり役になっていたと思います。

●感想
 ただ率直に言えることは、母親の介護とか貧困、将来有望だったサッカー選手としての挫折、彩人のまっすぐな正義感、それに弟・壮平の総合格闘技選手としてのサクセスストーリーが絡んで詰め込みすぎで、何を伝えたいのか主題がぼやけてしまいました。
 そして時折挿入される登場人物が拳銃で自殺を図るシーン。これも誰が妄想しているのかすらわからなく、唐突に挿入されるので混乱しました。まるで『ジョーカー2』みたいです(^^ゞ
 それに加えて、本作での警察への反感が異常なくらいの描かれ方をしているのです。
 劇中彩人が遭遇する通行人の若者への職質質問が以上にしつこく、人権無視な対応として描かれています。疑問を感じた彩人が警官に詰め寄ると、問答無用で無関係な彩人まで逮捕されて警察署まで連れて行かれるのです。
 それだけではありません。別な日によぱっらいにからまれて大けがを負った彩人に対し、たまたま現場に駆けつけた先日と同じ警察官は、なんと彩人を介抱もせず、病院にも連れて行かず、ただ警察署に連行するだけでした。
 警察に対する余りの権力乱用な描かれ方に驚きました。監督は余程警察に恨みを持っているようです。
上映時間 :119分
劇場公開日:2024年10月11日

流山の小地蔵