「あまりに共感しづらい」若き見知らぬ者たち luna33さんの映画レビュー(感想・評価)
あまりに共感しづらい
まとまりのない群像劇とでも言おうか。
要するに何だったのか、とにかく分かりにくいという印象しか残らない。観る側に解釈を委ねるというニュアンスなのかどうかすらよく分からないほど、この物語の主軸を定められなかった。つまり本来この作品の主題である「何が彼を殺したのか?」に対する解答を僕は最後まで見つける事が出来なかった。
彩人の死によって途中で主人公が弟へ交代するというアイデア自体は決して悪いとは思わないが、結局それが映画に何をもたらしたのか僕には正直あまり伝わって来なかった。もちろん僕の読解力の責任でもあるが、とは言え弟の背景がほぼ描かれていないので、そもそも感情移入出来るわけがない。なので後半は主人公が交代すると言うよりも主人公不在のまま話が進んだだけなのでは、と言わざるを得ない。だから主人公を交代させた意味は結局何だったの?となるわけだ。
最後の格闘技も、ワンカットで撮るという大胆さで素晴らしいシーンだったとは思う。ただその生々しさや迫力が映画をより「高み」へと導くという役割をまるで果たしてないように感じられた。ワンカットであろうかなかろうが、そのシーンが映画の中で効果的に生かされなければ何の意味もないわけで、もしかしてワンカットで撮る事自体が「目的」になってしまったのではと感じた。この映画のこの場面でこの長回しの格闘技シーンは本当に必要なのか?とさえ思ってしまうほど意味が全く見出せないのだ。だから非常に素晴らしいシーンであると同時にとても残念なシーンであるとも言える。でもこれだって要するに弟の人物像をしっかり描いてないからこういう事になるのではないか。
各登場人物も一人一人を見れば良かったとは思うが、基本的に描写や表現が少な過ぎて個々の人間性や心の動き、それぞれの関係性などが分かりづらく、想像するにしても振れ幅があまり大きいためひたすら戸惑ってしまう。例えば彼女が食べ物を吐くシーンも過食なのか妊娠なのかよく分からない。また母親をどう描きたかったのか、難病や貧困や介護の問題、父親の存在が兄弟に与えた影響、兄弟間の葛藤、友人との絆、それら全ての描写に何らまとまった方向性を見出せず、非常にストレスが溜まる形になったと言わざるを得ない。
そして何より警察官の対応や事件の処理の仕方などリアリティに欠ける表現がさすがに限度を大きく越えていて、それ以降の話がどうにもこうにも入って来ない。この作品に限らず意外にありがちだと思うのだが、世の中の「悪意」というものを表現する際に誇張が過ぎると逆効果というか「そんな事あるかい」とすごく冷めてしまうのだ。デフォルメの全てがいけないとも思わないが、少なくともこの作品においては彩人の死に直結するエピソードだけに、警察官との絡みはリアリティがとてつもなく重要ポイントだったはずだ。なので途中からすっかり気持ちが離れてしまったのは否定出来ない。
ただ唯一、彩人の死後に親友の大和が警察署へ出向いて警察官を問い詰めるシーン。「人なんて曖昧で不確かなものですよ」「だから信じるんですよ」このやり取りは良かった。これがこの映画のハイライトかなと思う。またチャンピオンになった弟がお店のカウンターで茫然と佇むラストカットもとても良かったと思う。ただこれも直前の格闘技シーンがいまいちハマってないから結局あのラストが生きて来ないのだ。本当はもっと圧倒的に良いシーンに出来たはずなのに。
それにしても群像劇がまとまる事なく最後までバラバラだと、結局何がしたかったん?となってしまう。改めて言うが僕の読解力の問題も否定は出来ない。ただ公平に見ても非常に伝わりにくい作品だと言うしかないだろう。基本的に監督は観る側に媚びたりせず、思うように好きなように作れば良いと個人的には思っている。とは言えただの「自己満足」になってしまってもいけないと思うのだ。
コメントありがとうございました。
あゝ荒野、観てみます!!
佐々木インマイマインを観て、楽しみにしていたので、後半の有り得なさにがっかりしてしまいました。
警察官の対応には全くリアリティがなかったですね。
コメントありがとうございます。
何か画に特徴が感じられない(拳銃の下り含む)ので余計ストーリーに目が行きますね。彼を殺・・の惹句はネタバレじゃないんでしょうか、チラシで堂々と。
共感ありがとうございます。
とにかく酷い話にしたかった、としか思えて来ないんですよね。スナックの血痕とか杜撰な捜査が立ち消えるのは、ストレンジャーズ=他人って事なんですかね。
コメントありがとうございました。ストレスが溜まる作品ですよね。私は元気になりたくて帰りにタンメンと餃子を食べてしまいました。
何が彼を殺したか?それは世の中の悪意、という事なのかもしれませんが、私は彩人は自分で自分を追い込んでしまったように感じました。彼女まで巻き込んで。
↑
かばこさんとまったく同じです。
もしかしたら、職務質問のくだりは、監督自身の体験を元にしたのかもしれませんね。
警察への反感をかなり歪な形で切り取ったようにすら見えます。
おっしゃること、共感しまくりです。
表現がずばり的確で素晴らしいです、そうそうそのとおり、と頷きまくっています。
私にも、「共感しづらい」映画でした。
>世の中の「悪意」というものを表現する際に誇張が過ぎると逆効果というか「そんな事あるかい」とすごく冷めてしまうのだ。
いやもう、おっしゃるとおりです。
ツッコミどころがありすぎるのと、ひとつのカットを延々長回しでみせることの多用で話が停滞してストレスが溜まっていたところ、警察官のくだり以降はすっかりキモチが離れて、真っ当に映画を消化しようという気が失せました。
まさに言いたかった事を的確に表現してくれていて、共感しかありません😆
テーマは非常によく、作り方さえ間違わなければ、4.0にも5.0にもなり得る作品だと思っているので、最悪の方向に舵を切った内山拓也が、尚更、腹がたつというか許せないというか(^^ゞ