「心に鬼を飼うことができなくても、自分を俯瞰できる視点だけは持ち続けたいと思った」若き見知らぬ者たち Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
心に鬼を飼うことができなくても、自分を俯瞰できる視点だけは持ち続けたいと思った
2024.10.11 イオンシネマ京都桂川
2024年の日本&フランス&韓国&香港合作の映画(119分、 PG12)
閉塞感に苛まれる若者の半生を描いた不条理系ヒューマンドラマ
監督&脚本は内山拓也
英題は『The Younger Stranger』で「若き見知らぬ人」という意味
物語の舞台は、神奈川県のどこか
難病を患う母・麻美(霧島れいか)の世話をしながら、父・亮介(豊原功輔)の残したバーを切り盛りしている長男の彩人(磯村勇斗、10歳時:林新竜、中学生時代:竹野世椰)は、工場を掛け持ちしながら生計を立てていた
弟の壮平(福山翔大、8歳時:岡崎琉旺、小学生高学年期:大野遥斗)は総合格闘技で活躍していて、ようやくタイトルマッチに手が届くところまで来ていた
彩人には恋人の日向(岸井ゆきの)がいて、彼女は家族同然の存在で、家の手伝いなどをしてくれていた
映画は、ある夜に職質を受けている若者(髙橋雄祐)を助けようとする彩人が警察と因縁を持ってしまうところから動き出す
あらぬ疑いをかけられて連行され、後半のエピソードでは被害者であるにも関わらず加害者として扱われてしまう
その時の警察(滝藤賢一)の対応によって彩人は死んでしまうのだが、映画は「どうしてこうなってしまったのか」を問いかけているようにも思える
警察の報告に嘘を感じた親友の大和(染谷将太)が警察官(東龍之介)に詰め寄るシーンもあるが、この場面での警察の暴論も強烈なものがあった
映画は、彩人の顛末を描き出すものの、その解決にあたるようなことは描かない
その後も自分の道を行くだけの壮平を描くものの、母親をどうするのかなどの問題は置き去りにされたままになっている
おそらくは金を貯めて施設に送ることになると思うが、家族という呪いをどのように断ち切るかというのが命題のようにも思える
彩人があのような結末を迎えた直接的な原因は色々とあるが、自分以外のことに力を注ぎすぎているように思えるので、特に路上の無関係の若者などは無視すべき案件のように思える
また、舞台が神奈川というのもある種の思想が出ている部分があって、結局のところ自分を助けるのは自分しかいない、ということを言いたいのかな、とも感じた
いずれにせよ、彩人の死後に店に行って、そこに血痕があるのに何も感じない大和と壮平を見ていると、何かしらネジが吹き飛んでいる人物ばかりなのかなと思った
警察の報告に違和感を感じるのに現場で感じない理由などはわからず、行政に相談もしないし、全てを抱えて人生を棒に振っている彩人を見ていると、来るべき時が来てしまったようにも見えてくる
反面教師的な側面があるとは言わないが、渦中に入れば見えなくなってしまうものもあると思うので、そういった意味も込めて、常に自分を俯瞰できる視点だけは持っておいた方が良いのかな、と思った