「感じることは人によって違う」君の忘れ方 Ericさんの映画レビュー(感想・評価)
感じることは人によって違う
このポスター。
「ねぇー 次は、いつ会える?」
恋人の美紀(西野七瀬)を交通事故で失った昴(坂東龍汰)が彼女の魂か霊と何度も会い、語り、笑ったりするからこの言葉なんだろうと思っていた。
違ったどころではなかった。
私は昴ほど近しい人を突然失った経験がない。それは恐らく幸せであり、幸運とさえ言えるかもしれない。しかし愛する人の喪失感は登場人物達のように色々だろうとは分かる。
スクリーンから目が離せなかった。淡々と物語が進むようで時にどきりとする。なぜか分からないが誰にも引きつけられた。違う想いを持っていることにも、静かと思えば激情になることにも違和感はなかった。
理屈ではない。昴がそう感じるからそうなった。表情を抑えた坂東さんと西野さんの姿が無理なく心に入る。
面々の中で昴に大きく関わる池内(岡田義徳)。自分の側に妻がいると言い、愛称で呼ぶように昴に持ち掛ける。そんな池内が美紀の姿に川の中へと進んだ昴を抱え止め、危なかった、恋人に引かれていると話す。ふっと意識を戻させるセリフ。池内は死を恐れ、妻の元に行くことは望んでいない。
その池内の「妻」目掛け現実を見ろとボールを激しく投げる昴。池内からしたら八つ当たりに近いだろう。その池内が一人山に入り何を考え、どうしてあの結論に至ったか過程は分からない。
それでいい。人の心情を全て説明する必要はない。分かったのは妻に会えたことがない牛丸(津田寛治)は池内を羨ましく思っており、池内はこのまま妻と一緒にいたいという想いだ。何も知らない人から見れば池内は「不気味な人」になるが、妻の手に自分の手を乗せる姿を否定したくない。池内の隣に妻がいる。それでいいのだ。
ラストで誰も座っていない座席を見つめていた昴。美紀が見えたのか、見えなかったのかこちらには何も言われない。でも昴は見えなくても美紀に側にいて欲しいと言った。そこに美紀はいたのだ。例え昴の想像であったとしても充分だ。
観ていて涙ぼろぼろにもならないし、腹を抱えて笑うこともない。もし私が突然旦那や子供を失ったら隣にいるかのように話しかけてしまうか、やはりいないのだと分かり絶望する。どちらの私も安易に想像できる。
この映画、好きです。