「インド映画ならではの圧倒的な熱量!」JAWAN ジャワーン 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
インド映画ならではの圧倒的な熱量!
ボリウッドの大スター、シャー・ルク・カーン主演によるアクション大作。
かつて瀕死の重傷を負ってインド国境の小さな村に流れ着いた謎の男は、村人からの看護を受けて嵐の夜に復活。30年後、包帯に身を包んだ謎の男は、部下の女性達6人と地下鉄をジャックし、インド社会に多大な影響力を誇る武器商人カリの娘を人質に取る。彼らは政府に対して多額の身代金約4000億ルピーを要求、見事強奪に成功する。しかしそれは、農業の為に借金を背負い、苦しみ続けている農民達の負債を帳消しにする為の行為だった。謎の男は去り際に、カリの娘にこう言い残していた。
「ヤツに伝えろ。俺の名は、ヴィクラム・ラトールだ。」
やがて、医療現場の備品不足や工業災害、自らの思考と選択ではなく多数派に迎合して投票される選挙と、インド社会の抱える様々な問題を通じて、謎の男とカリの因縁も明らかになってゆく。
主演のシャー・ルク・カーンは現在59歳。30歳という設定のテロ集団のボスにして女性刑務所の署長アーザードを演じる上ではかなりの高齢。しかし、本人のアンチエイジングとメイクによって、実年齢の半分に当たるアーザードを見事に演じ切っていた。ナルマダの娘との会話で、白髪染めに関する話題を出すメタ的な小ネタにはクスリとさせられた。テロ行為を行う中で、スキンヘッドから挑発ロングの眼鏡姿、顔を半分覆う怪しげな仮面姿まで、あらゆるビジュアルのカーンを堪能出来るのは非常に贅沢。
アーザードは謎の男ヴィクラムの息子で、父の名誉を回復する為、獄中で無念の死を遂げた母の仇を討つ為に戦っている事が明かされる中盤の展開は上手いと感心させられた。「何故、30年経っているのに主人公の見た目が若々しいままなのか?」という疑問に、窮地に陥ったアーザードを救う為、本物のヴィクラムが助けに来るという展開で、本作がカーンによる1人2役の作品なのだと回答を示してくれるのは面白かった。ヴィクラムはカーンの実年齢と近しい為、無精髭を蓄えたイケオジ姿にも抜群の説得力と絵力がある。
インド映画と言えば、豪華絢爛なド派手なダンスシーン。本作の一押しは、刑務所内でのアーザードと女性受刑者達のダンスシーンだろう。胸に響いてくる爆音のリズムが非常に心地よく、画面の煌びやかさも相まって圧巻のダンスシーンだった。
アクションシーンで多用される挿入歌をバックにスローモーションで描かれる決め絵の連続も、ここまでお金と情熱を掛けてやられては茶化すのは野暮というもの。何より、本作の作り手は真剣にこれをカッコイイと信じてやっているのだろう。その熱量に、思わず唸らされてしまった。
現実の社会問題に、フィクションとして夢と希望のある解決を与えるのは、エンタメとして正解だろう。また、フィクションだからこその過激な復讐、暴力による報復を行うという構図は、クエンティン・タランティーノ監督の作風にも通ずるものがある。
しかし、何よりも評価すべきは、アーザードが中継を通して国民に「誰が豊かな生活を与えてくれるのか、よく考えて選挙に行け!」と大真面目に演説するシーンだろう。これは日本にも通ずる点だし、これをフィクションで大真面目にやるというのは中々に覚悟の要る事だろう。
インドの選挙投票は、専用の機械を用いて行われるという点、女性死刑囚が妊婦の場合、子供が5歳になるまで刑の執行が延期されるという点は勉強になった。こうした文化や法の違いを知れるのも、海外の映画を鑑賞する楽しみの一つだろう。
唯一不満点を挙げるとすれば、同じインド映画である『RRR』と比較して、もう少しアクションシーンの派手さやボリュームが欲しいと感じてしまった点だろうか。特に、クライマックスのトラック襲撃や刑務所でのカリとの因縁の対決には、もう一捻り欲しかったところ。
流石に3時間弱の尺には多少の長さを感じたが、景気の良い高カロリーの演出を存分に堪能出来るのは間違いない。