劇場公開日 2024年1月12日

「この禍々しい世界の終息…いや終わらないのか」傷物語 こよみヴァンプ Uさんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5この禍々しい世界の終息…いや終わらないのか

2024年1月28日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

萌える

◉彩られた哀しみ
盛りを過ぎた吸血鬼の物語。何故、生き続けているのかと言う問いかけと、その問いかけが生む気怠い哀しみ。悲哀は拭い去れない業に変貌していく。生々しい血や髪の彩りが、消滅までのカウントダウンを刻んでいるように感じた。ありありとである。

◉能舞台の人々
車は様々に行き交い、工場は煙を吐き鉄の腕を伸ばし、競技場は美しく整えられているのに、主要キャスト以外、誰一人いない。三部作の中で私は冷血篇のみ観ていましたが、この能舞台のような異様な設定に心底、驚いた記憶があります。昼も夜も寂しい!
そして吸血鬼は、こんな世界がどこまで続くのかと言う問いに至る。一人の寂しさに耐えかねたキスショットが、暦に目をつけて侵食していくのだが、でも暦はキスショットの抗い難い膂力を、飄々と交わしていった。
エピソードもドラマトゥルギーも、ギロチンカッターも皆、聖職者みたいに研ぎ澄まされてカッコ良かったけれど、やはり暦君こそ、物語の控え目な参加者にして、実は支配者だったのでしょう。現に3人の刺客を倒していますからね。

◉傷つけ合う恋人たち
羽川翼と暦の知らず知らずの恋物語を、暦とキスショットの奪い合う恋物語が激しく侵していったのだと、私には見えたのですが。翼のふくよかな身体と心がとても素敵だったし、キスショットの苛立ちも魅力的でした。
とにかく、もどかしくも、加速していく恋人たちをじっと見つめていました。

それにしても、工場だけでなく街路も駅構内も空き地の草原も、何故、あそこまで輝いて美しかったのか? アニメの描写の力にひたすら押し倒されて、時間が過ぎた感じです。やがて終末を受け入れる生者たちの儚さだったのかも知れないです。実際は思いがけず結論を保留するエンディングに戸惑うやら、ホッとするやらだった訳ですが…
長い長い物語の発端がこの傷物語なんですね。深い傷を負ったところから始まる。

Uさん