「バイオレントラブ」サイレントラブ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
バイオレントラブ
ある事件により言葉を発せなくなった青年・蒼。
ある事故により視力を失った音大生・美夏。
美夏が奏でる美しいピアノの音色に魅せられた蒼は、陰の存在ながらも彼女を守ろうとするが…。
山田涼介と浜辺美波の美形カップリング。久石譲の音楽。さぞやロマンチックで美しく、感涙の純愛ストーリー…と思いきや、
なかなかのトンデモ作。
監督が内田英治だもんな…。
蒼が生気の無い顔で美夏の周りをうろつき、ついて周り、覗いたり…。
これ山田クンだから(と言うか映画だから)ピュアなラブストーリーとして成り立ってるものの、リアルだったらストーカースレスレ。
いや実際、美夏の家にまでついていったんだから、アウトでしょ。
ずっとそのままだと完全にストーカー映画になっちゃうので、進展あり。
美夏はやがて、蒼の存在を知る。ガムランボールの音と手への指タッチで…。
美夏は蒼を同じ音大生と勘違い。あなたのピアノを聴かせて。
蒼はある時出会ったピアニストの北村に“代役”を頼む。
借金を抱えていた北村は金を条件に引き受ける。
蒼は金を稼ぐ為、昼も夜も働き続ける。
ただただ、美夏にピアノを弾いて欲しい為に…。
自分には無い。彼女にはある。夢や希望の為に…。
だが、残酷な出来事が…。
この令和の時代に、昭和のメロドラマ。設定や展開何もかも。
貧乏人の青年、令嬢、裕福な家庭のイケメンピアニスト。何か、どっかで見たような…?
純愛。各々が抱える過去と悲しみ。そして襲い来る思わぬ運命。何か、どっかで見たような…?
別にそれをベタでもベタなりに魅せる事が出来たらいいんだけど…、あの『ミッドナイトスワン』を手掛けたとは思えないほど、演出や脚本がお粗末。
例えば、ストーカーのように見えたり。
例えば、美夏は視覚障害になったばかりなのに一人でふらふら出歩いたり。
例えば、ある時3人でドライブ。どういうシチュエーション…?
リアリティー無し。設定や展開も納得や説得力に欠ける。
存在不明のキャラ(古田新太演じる蒼と同僚の清掃のおっさん)、蒼の友人のあまりにもバカげた行動、間抜けな警察…。
各々のキャラや設定や台詞に、ナチュラルさや生きた感情が伝わっていない。いやはっきり、込められていないように感じた。
そして、多くの方が指摘。賛否の争点。ラブストーリーかと思ったら、グロやバイオレンスがなかなか強烈。
蒼の過去。刃物で首を刺され、その刃物で相手を刺し殺し…。(言葉を発せなくなった理由)
北村が入り浸る裏カジノ。そこのヤベー連中に北村は拉致られ(蒼の友人のせい)、リンチの上に手を串刺しにされ…。
助けに来た蒼は格闘。エッ、アクション映画…?
そこで衝撃の展開に…。
ラブストーリーを作りたかったの…? 何を作りたかったの…?
そういや『ミッドナイトスワン』でも陰湿なシーンあったり、音楽コメディ『異動辞令は音楽隊!』でも暴力的なシーンあったり、初期の作品にはバイオレンスやグロあったり…。
そもそも内田監督は“そっち系”であり、ハートフルな作品やラブストーリーなんて作る気さらさら無かったのかもしれない。
役柄が悪かったのか、演出が悪かったのか、それともそもそもの実力か。何だか今回、浜辺美波が魅力的に見えなかったな…。
山田クンは良かった。ヤベーストーカーにギリ見えなかったのも、彼の巧演あったから。美夏の為に街行く人に道を開けさせて貰ったり、さりげない指タッチはちと心温まった。アイドルの枠に留まらず、役者としてや演技力は申し分ナシ。が、本作も例外に漏れず、作品に恵まれない…。
単なる横柄な恋敵ではない野村周平の役柄が結構良かった。最初は金目的だったが、何だかんだ言いながらも代役をやり、彼の奏でるピアノの音色は嘘偽りなく、案外いい奴じゃん。やがて美夏に惹かれ…何だか彼の方に情が移ってしまった。
だから、最後は結局そういうオチか…。
ピュアなラブストーリーと思えて痛々しいシーンや展開もあり、結ばれぬ運命の方がしっくり来るかと思ったが、まあそれでもは一応美男美女が織り成すラブストーリーだからそう終わらないと美しくないのだろうけど…。
ちょっと強引な気もした。
ガムランボールの音はあなたの声であり、あなたの手は神の手。
この二人だけにしか分からない“異色”のラブストーリー。