苦悩のリストのレビュー・感想・評価
全3件を表示
マフマルバフ一家の末娘が切実に訴えるアフガンの人々の苦難
イラン出身の映画一家マフマルバフ・ファミリーの末娘ハナが監督作『子供の情景』を発表したのはまだ10代前半だったと思う。もちろん家族のサポートがあって完成した作品だろうが、タリバン支配下のアフガニスタンで、子どもたちが憎しみと争いの連鎖に巻き込まれていく姿がひとつの寓話としてみごとに描かれていた。
マフマルバフ・ファミリーはその後イランから亡命し、現在はロンドン在住だという。しかしアフガンが再びタリバン支配となり、米軍が撤退を進める中で、父モフセンは命の危険にさらされたアフガンの芸術家たちとその家族を、あの手この手で国外に脱出させようと奔走する。もうすっかり大人になって子ども育てているハナが父に呼び出されて救出作戦を手伝いながら、その模様を映像で記録したのがこのドキュメンタリー。
タイトルは、救出する人々の優先順位を付けねばならない事態になり、苦悩の末に20人ずつのリストを作っていく作業に由来する。
正直、世界のすべての苦難に心を寄せたり実際に行動できればいいけれど、超人ではないのでとてもムリ。しかし、救出計画の切実さは、見ていて息が苦しくなるほど。ハナは世界にいまも続いているアフガンの芸術家たちの苦難を伝えるために映画という形にまとめたと発言しており、実際、ジャーナリスティックなドキュメンタリーだと思うのだが、アフガンの惨状とロンドンの日常と隣合わせに描くことで、汎用性の高い痛烈な作品になっているのはさすが。
「パニック」ではない、極限の絶望
そこには死が待っているとわかってていても、離陸する輸送機にしがみつき、空から落下していく人々の姿……。
単なる「パニック」ではなく、そこに残ることが死よりも恐ろしいという、極限の絶望そのもの。
人が人を尊厳のないものとして扱う。その現実が映し出されていた。
こんな非道な行為を平気でできるような心境にさせている環境が恐ろしい。
人は特定の環境下で怪物に変わってしまう。
その兵士が所属する国に対して強い憤りを感じたが、”国民全員が悪いわけじゃない”、”国が悪いわけじゃない”と自分に言い聞かせながら観た。
憎しみの連鎖に飲み込まれないための防衛本能は忘れてはいけないと。
でもそのやり方を支援している人がいるのも、その命令に従っている人もいるのも事実。
何を思えばいいんだろう。何ができるんだろう。
みんな持ってるはずの優しい心はどこに行ったのか。
自分の頭でちゃんと深く考えてほしいと願うばかりだ。
誰を助けるかなんて簡単に決められない。 何人に絞れなんてできない。
選ぶ方も選ばれる方も苦しい。
嘔気と涙が止まらなかった。
「そんなの選べる筈はない」
2021年に米軍がアフガニスタンから撤退したことにより、それまで地方で勢力を温存していたタリバンが一挙に全土を掌握します。それによって、国外に脱出しようとする人々によって空港はパニック状態に陥りました。飛び立とうとする米軍機の翼や車輪に多くの人々がしがみつきますが、機はそんな事を意に介する事なく離陸します。すると、空高く舞い上がった飛行機から次々と人が振り落とされるのです。誰一人助かってはいないでしょう。それを映像に記録する残酷さ。
一方、それまで自由な活動をしていた作家・映画監督には、タリバンによる迫害・拷問・殺害の危機が迫ります。そこで、国外に居るイラン人映画監督が支援グループを組織して、彼らを国外に逃がそうとします。しかし、タリバンが空港閉鎖と指定した期限は迫るのに、航空機の手配は足りず、支援したい人々と連絡も取れず、国外脱出が必要として彼らが挙げた人々全員を搭乗させるのは不可能となります。そこで、彼らは、では一体誰を助けるのかを選別せねばならなくなったのでした。
作中で悲鳴の様に語られますが「そんなの選べる筈はない」のです。自分の選択一つで人の命が決定されてしまうかも知れないのですから。でも、何もしないよりは一人でも多く助けた方が良いに決まっています。これは辛いなぁ。
こんな事言っても世界はびくともしない事を承知で改めて声を挙げたい。人を殺すな、傷つけるな、自由に発言できる平等で開かれた社会を。
全3件を表示


