「国家反逆か、公益通報か」リアリティ レントさんの映画レビュー(感想・評価)
国家反逆か、公益通報か
毛糸のいとを一本一本解きほぐすかのように行われる尋問。けして脅したりすかしたりしない、しかし着実に相手の心を解きほぐし軟化させ無防備にさせてから心理的な圧力を加えて一気に自白させようとするFBI捜査官たちの巧妙な尋問手法が徐々に明らかになり、あたかも鑑賞中自分が尋問を受けているかのような追い詰められてゆく錯覚に陥るリアリティある作品。
主人公リアリティが自分の犯行を自白するまでを追ったまさにリアルドキュメンタリーな作品、観客はまさにそこにリアリティを感じる。
2016年に起きたロシアによるアメリカ大統領選への選挙介入、ロシアゲート事件。その衝撃的事実をリークした女性が逮捕され結果的に五年の拘留を余儀なくされた。
当時のトランプ政権ではそのリークは政権を揺るがす行為として国家反逆とみなされた。時の政府にとって都合の悪いリークが国にとって不利益となるのか利益となるかは判断は難しい。時の政府自体が国益を損ねることもある。それを正そうとするリークならば彼女の行為は国を思っての行為として公益通報者として保護され称賛されるべきものだ。
彼女のした行為は確かに情報漏洩として法律違反に値するが、と同時に国民の知る権利という憲法上の権利を守った行為ともいえる。自国の大統領選挙の結果が他国の情報操作によって捻じ曲げられたという事実は国民が知るべき事実と言えるだろう。しかし彼女は逮捕され投獄されてしまう。
尋問のさなか、彼女のリークは自分の現在の不遇な状況への憂さ晴らしが動機ともとれるような発言がなされるが、これをもって彼女のリークをただの密告と非難できない。
公益通報として重要なのはたとえ私怨などが絡んで行われたとしても客観的に見て公益となっていればそれは公益にかなった通報と判断されるべきであるということだ。
いま日本でもこの公益通報制度が揺れている。鹿児島県警の不正リーク事件と兵庫県知事のパワハラを告発した事件だ。共に被害者は公益通報者である。あろうことか一方は逮捕され、一方は自死に至っている。本来守られるべき通報者が権力によって葬られようとしているのである。それをリークされて困る権力者側がもみ消そうとしているのであるから事態は深刻である。不正を正し、より良い行政を目指すのを目的とした公益通報制度の根幹にかかわる由々しき事態である。
結局リアリティはこのような事件では5年という異例ともいえる長い拘留をされることになる。人権を軽視した政権下で処罰されたのがそのゆえんかとも思える。その人権軽視の最たる人物が再び大統領の座に就こうとしている。先日彼は銃撃を受けたが、暴力には断固反対すると息巻いていた。今までさんざん支持者たちを煽り議会襲撃事件や対抗勢力への暴力行為を扇動し、暴力の連鎖に国を巻き込んできた人間の言葉とは思えない。アメリカの傀儡国家である我々の国もこれから4年間は戦々恐々とした状況に追い込まれるだろう。
劇中捜査官に責められて追い詰められてゆくリアリティ。しかし本当に責められるべきはどちらであろうか。