「この82分間の「リアル」から目が離せない!」リアリティ ドミトリー・グーロフさんの映画レビュー(感想・評価)
この82分間の「リアル」から目が離せない!
ズバリ、必見の力作。
ファーストシーンのカメラアングルから一瞬、これは「モニュメンタリー映画か?」と勘ぐるが、やがてFBIによる家宅捜索と任意尋問の一部始終を「リアル」にたどった作品であることが、じわじわ吞み込めてくる。
タイトルの『リアリティ』は主人公である女性の名前なのだが、本作の基本姿勢をハッキリ「宣言」したものともいえる。
日産キューブでスーパーの買い出しから帰宅する、化粧っ気なしの主人公。
歩道に放置された、南軍旗マークの付いたおもちゃの車。
不意の“訪問客”に怯えて吠えたてる飼い犬、ベッドの下に隠れる猫。
『風の谷のナウシカ』のステッカーが貼られた冷蔵庫。
そんな日常のひとコマ一コマを挟みながら、彼女と捜査官が、腹の内を探り合うように玄関口でぎこちない会話を交わす。その間も、屈強な男性たちが次々と室内へ踏み込んでいく。みるみる緊張感が画面に張りつめ、一瞬たりとも目が離せなくなる…。
なんでも、本作は、実際に現場録音された尋問記録を基に「ほぼリアルタイムで、何気ない会話や息遣い、咳払いひとつに至るまで完全再現した」ものなのだとか。とにかく鑑賞中の緊迫感といったらハンパない。この種の極限状態、どこかで覚えがあるぞと思い出したのが、「CVR チャーリー・ビクター・ロミオ」というアメリカの舞台劇だ。
いわゆる「ドキュメンタリー演劇」の代表作の1本といわれる同作は、実際の航空機事故のボイス・レコーダーから文字起こししてそのまま台本化。乗務員に扮した俳優が「その最後の瞬間」を舞台上で「再現」してみせる。極限状態に置かれた人の心理が凄まじい強度で観客に迫ってくる演劇だった。
そこで、本作『リアリティ』の監督プロフィールを確認すると、やはり劇作家・演出家・劇団代表として活躍する演劇畑の女性であり、本作も彼女の舞台劇を自ら映画化したものだった。
しかしこの映画では、セリフによる尋問記録の「完全再現」にとどまらない。原本の黒塗り(伏せ字)箇所を映画独自の画像処理で見せたり、さりげない日常風景や生活感ある室内を徹底的に「再現」描写するなど、視覚的工夫を凝らしている。最大の山場である室内尋問シーンからも芝居臭さは感じられず、密室劇の名作『十二人の怒れる男』に見られるような名優たちの演技合戦も、ここにはない。徹頭徹尾「リアル」にこだわることで見応えたっぷりの映画に仕上げているのだ。