「意外なほどに紳士的な鬼が登場するが、実際に起きたらもっとエゲツないと思う」コンクリート・ユートピア Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
意外なほどに紳士的な鬼が登場するが、実際に起きたらもっとエゲツないと思う
2024.1.5 字幕 イオンシネマ京都桂川
2023年の韓国映画(130分、G)
天変地異によって唯一崩壊しなかったマンションの住人を描くディザスターパニック映画
監督&脚本はオム・テファ
原題は『콘크리트 유토피아』、英題は『Concrete Utopia』で、共に「コンクリートの楽園」という意味
物語は、原因不明の天変地異にて、「皇居アパート」の103棟だけが崩壊を免れているところから紡がれる
周囲の建物は全て瓦礫と化し、生き残った人々は皇居アパートに集っていた
だが、物資は枯渇し、住民たちは会議を開くことになった
会議を主導したのはアパートの女性副会長だったキム・グメ(キム・ソニョン)で、そこには火災を鎮めた902号室のキム・ヨンタク(イ・ビョンホン)、その手伝いをしたキム・ミンソン(パク・ソジュン)とその妻ミョンファ(パク・ボヨン)がいた
その他にはグメの息子ジヒョク(イ・ヒョジェ)と友人のチョンウ(キム・シウン)などもいて、23年かけてアパートを購入したワン(クァク・ジャヒョン)は「外部の追い出し」を提案する
碁石による投票の結果、大多数の支持にて外部住民を排除することになり、特に高級マンションのドリームハウスの住民との過去の軋轢が行動をエスカレートさせていた
彼らはアパートの前に3つのルールを書いてバリケードを敷き、そして防犯部隊を設置して、食料は外部へと求めるというダブルスタンダードの恐怖政治を始めてしまう
そして、皇居アパートの代表にヨンタクが選ばれ、彼の主導のもと、統治体制は築かれ、ミンソンはそれに加担していくことになった
妻ミョンファはこの体制に反対の立場だったが、生き残るためにやむを得なく同調するしかない
やがてヨンタクは、外の人間を「ゴキブリ」と称し、「自分たちは選ばれし者だ」という選民思想を生み出して、暴力的な支配を続けていくのである
映画は、この状況がどのようにして起きたかという背景の説明は一切なく、国の機能も崩壊し、全世界的な災害であるように描かれていく
通信網、ライフラインも全て寸断され、飲み水すら碌に手に入らない
スーパーなどにある保存食を分け合うものの、数十人もいればすぐに枯渇し、範囲を広げて捜索するしかない
だが、ヘイトを募らせる行動ばかり繰り返しているため、外部住民から反撃を喰らうハメになってしまうのである
映画は、極限状態の人間を描いていて、権力を持った人間が豹変する様を描いている
本来ならば、身を隠して生きようとしていたヨンタクだが、行動を認められて代表に抜擢されてしまった
彼らは奪うことで生存を考えるのだが、それは永続的なものではなく場当たり的で、その対極にあるのが、ラストの倒壊ビルで過ごす人々になるのだろう
だが、近くにはホームレスが潜伏している状況なので、あの場所も安全とは限らない
最適解があるとすれば、皇居アパートよりも手狭で管理がしやすい建物で、中庭などを利用して自営するしかないように思える
いずれにせよ、極限状態だと人は鬼になるという典型の映画なのだが、崩壊の度合いを考えると、この環境でどう生きていくかに早めにシフトするしかないと思う
皇居アパートの屋上に登れば、この世界がどうなっているのかが一目瞭然なので、世界を知ることで対策が取れることもあると思う
それでも自暴自棄になるとか、絶望から命を絶つとか、全ての欲望を解放する奴が現れるなどのことが起こると思うので、描かれている世界はぬるめになっているのではないだろうか
世界が終わることを望む病的な人間も出てこないし、女性を襲う男性も出てこないので、そう言った意味では不思議と紳士的な世界になっているのは微妙かなあと思った