「ユートピアからディストピアへ」コンクリート・ユートピア kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)
ユートピアからディストピアへ
この時期にこの映画を楽しんでいいのかとの迷いもあるが、そこは割り切るしかない。
極限状態にある閉鎖された空間で人はどのように思考し行動するのか。大地震で周りの建物がほぼ倒壊している中、残ったマンションが舞台。ソウルの気候を考えると屋外で過ごすのは死を意味する。
こうした設定はありがちとも言えるが、本作が面白かったのはマンションの住民組織が作られていく過程が描かれていること。そこにはリーダーが必要という考えがベースにあるのも韓国的な気がしてしまう。日本だったらあんな感じでリーダーを持ち上げない気がするし、あくまで合議で決めようとする人が多いはず。
だからあまり身近なことには感じないが、起こる出来事やみんなの行動、そして最後の展開を楽しませてもらった。
本作であのマンションはたしかにユートピアと呼べるような状況が作られた(あくまでその周りと比べた上での理想郷だが)。でも、ユートピアが現実に存在し維持していくのは難しく、システムも綻びを見せていく。ユートピアに見えたマンションが徐々にディストピア化していくのがまた興味深い。
あれだけの地震が起こっているのに全く救助が来ないということは、韓国全土が崩壊するほどの規模だったのか。そのあたりの説明はない。その割り切りは逆にあの空間の異様さを際立たせ、余計なことを考えさせない効果があった。
人肉を食べることについて、明確な描写はなかったが、最後の方で弱っている2人を見つめる男の表情が、獲物を狙う動物の顔になっていて、本当におぞましいシーンだった。そう考えるとあのラストは救いがある。ただ、あれからどうなるんだ?と考えるとハッピーエンドとは言えない。