「お前の方がよほど不審者だよ」隣人X 疑惑の彼女 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
お前の方がよほど不審者だよ
宇宙からの難民として地球に大挙避難してきた「X」と呼ばれる生命体、
各国の対応は異なるもののアメリカが正式に受け入れを決めたことから日本政府も追随。
しかし官と民の受け取り方はまた別。
自分の近くにも「X」が潜んでいるのでは、と
多くの人が疑心暗鬼に。
もっとも「X」の特性、
最初に触れた人間に擬態し
「X」間でも、人間との間でも生殖行為ができ子孫を残せてしまう。
また、擬態時のコピーエラーにより
自身が「X」であったことの記憶を失う場合もあり、
世代が繋がれば自身が「X」なのを自覚していないケースも多々。
更に「X]は、人間に危害を加えられないことから、
表立った排斥や迫害には繋がっていない。
ここで古くからの{SF}ファンは
〔遊星からの物体X(1982年)〕を思い出す。
本作との大きな違いは、クリーチャーの異形さ、
生物を襲うこと、また
擬態・同化する異常なスピード感。
が、その三点の差異が圧倒的な恐怖を生む
(逆に言えばそれがないだけで、随分とソフトな印象を受ける)。
週刊誌記者の『笹(林遣都)』は
市井に潜む「X」を探り出す特命を帯び
疑いのある『柏木良子(上野樹里』に近づくのだが、
次第に彼女に恋愛感情を抱くようになり・・・・。
ここで本作のもう一つのテーマが浮かび上がって来る。
元々は人間とは異なる形状も、
まるっきり擬態している生物は、果たして何者なのか?
加えて、けして人間に危害を加えないのであれば、
通常の人類よりもよほど高次の存在ではないか?
イマイマの日本に遍在する、ありとあらゆる対象への
扇情的な「差別」の問題への寓意。
『笹』と『良子』、
更にはもう一組の恋愛模様を織り込みつつ
(とりわけ後者は、外国人差別の問題も取り込んで)、
ややステレオタイプではあるもののマスコミの横暴も描きながら
根底にあるのは{ロマンスムービー}。
「X」の本来のカタチを知りながらも、
可能性のある『良子』への愛情を抑えきれない『笹』。
その結末には心を動かされる。
とは言え「X」が持つ識別子を提示する必要があったかは疑問。
それが無くとも物語としては、十二分に成立したのでは。
朗読される〔星の王子さま〕の有名な一節
「いちばんたいせつなことは、目に見えない」とも乖離している気がするのだ。