「非常に濃密で悲哀に満ちた物語。最後は少し希望の持てる終わり方」52ヘルツのクジラたち 臥龍さんの映画レビュー(感想・評価)
非常に濃密で悲哀に満ちた物語。最後は少し希望の持てる終わり方
小説は未読です。序盤から児童虐待、ヤングケアラー、DV、性同一性障害など悲しく重苦しい展開が続きます。2時間30分の映画ですが、すごく濃密でまったく長さを感じさせません。メッセージ性含め改めて邦画の力を感じた映画でした。また、非常に難しい役どころを演じ切った杉咲花さんの演技力も素晴らしかったです。
タイトルの『52ヘルツのクジラ』とは、声をあげても届かない人々を比喩したものですが、劇中にはそんな声を上げられず苦しんでいる人々の姿が描かれています。この映画では声を出すことで救われた人、声を出したけど受け入れられず自死を選んだ人などが描かれており『声に耳を傾けることの大切さ』について改めて考えさせられる良作でした。
ひとつ難点を挙げるなら、連ドラでもいいくらいの内容を2時間30分にギュッと凝縮して詰め込んだため、ひとつひとつの掘り下げが浅く、行間を自分で埋めないとなかなか理解や感情移入が難しかった点については惜しまれます。
ここからはあらすじ
杉咲花演じる貴湖は幼少期から日常的に母親の虐待を受け、ネグレクトの状態にありました。さらに高校卒業後は家から一歩も出ず、継父の介護に追われる日々を送っていました。
そんなある日、介護中に継父が誤嚥性肺炎を起こします。母親はそれを貴湖の責任だと咎め『おまえが死ねばいいのに!』と罵倒し、暴行した挙句、首を絞めて殺そうとします。その場にいた医者に止められ、辛うじて命は取り留めましたが、貴湖は深く傷つき自殺を図ります。
間一髪のところで志尊淳演じるアンに救われますが、アンは抜け殻のような貴湖の精神状態を心配し、美晴(貴湖の元同級生)と共に貴湖に寄り添い、必死に心の声に耳を傾けます。
その後、貴湖は母親と距離を置くため、美晴の家で生活することとなり、徐々に母親からの精神的呪縛が解かれて自我を取り戻していきます。そして、意を決した貴湖はアンを伴い、直談判して母親と絶縁することに成功します。
そんななか貴湖は次第にアンに好意を寄せるようになり、告白します。しかし、アンは(本当は両想いだったのにもかかわらず)『貴湖は心の友だよ』と言って告白を断り、貴湖も落胆はしながらもそれを受け入れます。
そんな貴湖ですが、しばらくして職場の上司である新名に見初められ、恋人関係になります。新名は会社の重役であり、いずれ会社を引き継ぐ社長の跡取り息子というエリートの大金持ち。貴湖と新名は何度も男女の関係を持ち、同棲を始めます。
そして、貴湖はアンと美晴を新名に紹介します。しかし、新名は貴湖とアンとの関係にただならぬ雰囲気を感じたのか、アンに対し強烈な嫉妬心を抱き、それを露骨に顕します。そのことでアンと新名は険悪の仲となります。
そんななか新名には貴湖とは別に婚約者がいたことが発覚します。ショックを受ける貴湖。しかし、新名は貴湖に『これは父親にごり押しされた政略結婚で、本意ではないし愛もない。愛してるのは貴湖だけだ』と言って、貴湖もそれを受け入れ同棲を続けます。
しかし、しばらくして新名の婚約者宛てに、貴湖と新名の同棲を告げ口する手紙が届きます。それにより新名の婚約は破談となり、新名は両親の怒りを買って職も失います。新名は自暴自棄となり、酒浸りの日々を送り、さらには貴湖に暴力まで振るうようになります。
そして、その手紙は貴湖と新名の仲を引き裂くためにアンが送ったものでした。
すべてをぶち壊された新名はアンへの復讐を企てます。新名はアンの身辺調査を行い、アンがトランスジェンダー(心と見た目は男性だが、戸籍上の性別は女性)という事実を突き止めます。
新名はその事実をまずアンの母親に告げます。アンは自身がトランスジェンダーであることを母親に知られ、深く傷つき泣き崩れます。その後、アンは母親と話し合いの場を持ちますが、母親はその現実を受け止めきれません。さらに新名は貴湖にもアンがトランスジェンダーであることを告げます。
数日後、貴湖が母親とともにアンの自宅に入ると、アンは浴槽で自殺していました。母親はアンがトランスジェンダーであることを受け入れなかったために自殺したと自責の念に駆られます。
貴湖は新名にアンの自殺を告げ、新名の目の前で自ら腹に包丁を刺して自殺を図ります。幸い一命は取り留めたものの、傷心の貴湖は新名に別れを告げ、東京を離れて地方の静かな海辺の街の一軒家に移り住みます。
その街で貴湖はとある少年と出会います。その少年もまた貴湖と同様、母親に疎まれ、日常的に虐待され、ネグレクトされていました。貴湖は自分と同じ道を歩ませまいとその少年を保護し、同居生活を始めます。
そこにアンの自殺後、消息不明となった貴湖を案じ、家を訪れた美晴も加わり3人での共同生活が始まります。少年は生活を共にするなか、次第に貴湖と美晴に心を開いていきます。
そんななか少年の行方不明届けが出されていることを知ります。このまま少年を母親の元に返さなければ、貴湖と美晴は誘拐犯となってしまう。それを知った少年は家を飛び出し、自殺を図ろうとします。
しかし、その寸前で貴湖が自殺を止め、事なきを得ます。貴湖と美晴は母親による虐待の事実を訴えることで、役所に少年の保護についての理解を求めます。こうして3人はようやく平穏な暮らしを取り戻すこととなりました。
臥龍さん こちらこそありがとうございます。丁寧なコメントに感激です。
私はあまり考察とかは苦手なので、面白かったー、誰々が良かったーとその程度のレビューですが、お読みいただきありがとうございます。
本当に皆さん、色々な感想をお持ちなので、レビュー読むの楽しいですよね。
働いてますが、平日休みがあるんで、行かれる時はガンガン見に行こうという感じで映画館に足を運んでおります。
今後ともよろしくお願いいたします。