劇場公開日 2024年3月1日

「問題を絞り込み、深掘り、考察して欲しかった」52ヘルツのクジラたち みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5問題を絞り込み、深掘り、考察して欲しかった

2024年3月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

難しい

本屋大賞受賞作が原作ということなので、期待して鑑賞したのだが・・・。本作は、幼児虐待、ネグレクト、ヤングケアラー、トランスジェンダーなどの現代社会が抱える問題に真摯に迫った良作である。しかし、それぞれの問題を網羅的に一つの作品に纏めようとする作り手の意欲は買うが、それぞれの問題の闇は深く一筋縄ではいかない。網羅的にまとめるには無理があると感じた。

本作の主人公は、三島貴湖(杉咲花)。彼女は、家族に振り回されて生きてきた。心の痛みを癒す為、東京から海辺の町の一軒家に引っ越してきた彼女は、そこで、母親からムシと呼ばれて虐待される、声の出せない少年に出会う。彼女は少年との交流を通して、かつて、彼女の声なき叫びを受け止め救い出してくれたアンさん=岡田安吾(志尊淳)と過ごした日々が蘇ってくる・・・。

起点として、それぞれの問題を纏めて提起するのは構わない。しかし、その後は、問題を絞り込み、その問題に丁寧に寄り添って、深掘りし希望ある解決の糸口を示すべきだろう。その問題解決までのプロセスが他の問題のケーススタディーになるだろう。

但し、本作で取り上げた問題は家族の問題が殆どであるが、一つだけ異質な問題がある。それはトランスジェンダー問題である。演じる志尊淳は健闘しているが、問題の掘り下げが浅く、当事者の心情が理解できない。寄り添えない。感情移入出来ない。また、他の問題は家族の問題としての共通性があるが、この問題は、性別の問題であり、家族の問題と同時に描くには無理がある。原作未読なので、原作がどうなっているかは分からないが、思い切ってカットした方が、作品としての安定感は増すと推察する。

現代社会が抱える問題に網羅的に迫るのではなく、問題を整理、分析し主軸となる問題を選択し、その問題を集中的に深掘りし考察していくという手法で問題に迫って欲しかった。そうすれば、より重厚で感動的な作品になったのではないだろうか。

みかずき
ぱおうさんのコメント
2024年3月15日

こんばんは。
レビュー拝読しましたが、本作から受けた印象には近いものがあったようです。これも、共感と言って良いのでしょうか?
私の場合は、先に原作を読んでいたのが大きな違いです。その立場からは、盛り込みすぎというよりも、そもそも2時間ものの1本にまとめるのが無理筋だったように思えます。
文庫本で1冊の、長くもない小説なのですが、さすが本屋大賞受賞作品とでも言いましょうか、重いテーマなのに、楽しく、テンポ良く読めて、最後にはすっきりと気持ちよい読後感が残るのです。
映像化には期待はしましたが、映画は映画と割り切って、おっしゃる通り、テーマも絞った方が良かったのでしょうね。
お時間がありましたら、ぜひ原作もお読みになってみてください。

ぱおう
かばこさんのコメント
2024年3月9日

こんにちは
「網羅的にまとめるには無理がある」おっしゃるとおりと思います。
ヤング・ケアラー、虐待、ネグレクト、DVに愛人と、現代人の問題を一身に抱えたきこは、現代問題のデパート状態でちょっと間違ったらギャグになりそう。熱演すぎたらヤバかったかもですが、杉咲花の演技力でそうならなかった気がします。

かばこ
トミーさんのコメント
2024年3月8日

共感ありがとうございます。
盛り過ぎて焦点がぼやけてしまったのはその通りと思いました。
アンさんのくだりはジェンダーが家族に居たケースという事で「逃げていい」「新しい人生」「ここで一度死んだ」と前に言っていた部分と繋がるとは思うのですが、母親が来てからはあっさり流されてしまいました。せめて母親宛の遺書の内容位・・と思いましたが切腹騒ぎでこれも有耶無耶。まぁここを掘り下げると明らかに尺不足になるでしょうしね。

トミー