コラム:21世紀的亜細亜電影事情 - 第8回

2014年4月28日更新

21世紀的亜細亜電影事情

第8回:中国の「抗日」ドラマの現状は?

中国といえば「抗日」ドラマが多いと聞く。尖閣諸島(中国名・釣魚島)の領有権問題で日中関係が冷え込む中、内容的にも時節的にも、日本で紹介される機会はほとんどない。中国の人々はどんな作品を観て、日本人はどう描かれているのだろう?

現地メディアによると、中国で大規模な反日デモが起きた2012年、中国当局に制作申請されたドラマ300本のうち、抗日作品は3分の2に達した。中国最大の映画・ドラマ制作拠点「横店影視城」(浙江省)が同年受け入れた撮影チーム150組のうち、48組が抗日作品を作っていた。同拠点で働いたエキストラのべ約30万人のうち、6割が「戦争もので日本兵を演じたことがある」と答えたいう。抗日・反日作品はまさに中国ドラマの主流となった。

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ある20代の男性エキストラは話す。「毎年数十作品の撮影に参加するが、すべて日本の中国侵略を扱った作品だ。1年で200回以上日本兵を演じ、1日に8回“死んだ”こともあったよ。日本人を演じる時は下品なほど喜ばれるんだ」。彼はそう言いながら、凶悪な日本兵を演じてみせた。

なぜこれほど抗日作品が増えたのか。北京市の映画・演劇人材養成大学「中央戯劇学院」の教授の1人は「テーマが政治的に安全なうえ、簡単に好視聴率を稼げるから」と話す。メディア関係者は「時代劇は検閲が厳しく、スパイものは(当局の規制で)ゴールデンタイムに放送できない。抗日作品以外に何が撮れる?」と自嘲気味だ。

かくして中国ドラマ界には“抗日旋風”が吹き荒れる事態になった。テレビをつければ黄土色の軍服を着た日本兵が走り回り、バタバタと中国人に倒されている。同関係者は「視聴者は喜び、テレビ局は作品を買いたがる。大量生産の理由だよ」と語る。

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しかし作品が増えるに従い、史実はどこへやら。奇想天外な設定、奇妙なエピソードが急増した。農民が「鉄の一撃」で日本兵を倒したり、武闘家が素手で人間を真っ二つに切り裂いたり、「必殺のツボ」を一突きしたり、なぜか露出度の高い女性が出てきたり、当時はありえぬ皮ジャン姿でバイクを乗り回したり。作りすぎたためネタ切れなのか、おかしな描写が激増している。

これに対し、中国の視聴者もさすがに「うんざり」と言い始めた。インターネット上には「非現実的すぎる」、「観るに耐えない」、「笑ってしまう」、「次世代に対してどう責任を取るのか」などの声が拡大。映画やドラマで活躍するベテラン俳優の陳道明(チェン・ダオミン)も「歴史をわい曲し、若者を誤った方向に導いている」と批判。テレビ局の一部が問題箇所をカットする事態も起きた。

中国当局は昨年以降、抗日ドラマに対する規制を強化している。脚本を精査し、荒唐無稽な作品を排除する方針だ。しかし、一度味わった甘い汁はなかなか捨てられない。製作者らは「ネタ不足」、「いい脚本がない」と嘆きつつ、大はずれしない抗日作品を作り続けているのが現状のようだ。

筆者紹介

遠海安のコラム

遠海安(とおみ・あん)。全国紙記者を経てフリー。インドネシア(ジャカルタ)2年、マレーシア(クアラルンプール)2年、中国広州・香港・台湾で計3年在住。中国語・インドネシア(マレー)語・スワヒリ語・英語使い。「映画の森」主宰。

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