コラム:21世紀的亜細亜電影事情 - 第17回

2016年10月12日更新

21世紀的亜細亜電影事情

一方、今回3作品が一挙上映されるテディ・スリアアトマジャ監督が挑むのは、イスラム教徒が9割を占めるインドネシアで、タブーに切り込むテーマばかり。「ラブリー・マン」は失踪した父を探してジャカルタに出た娘が、女装して男娼として働く姿を発見。敬けんなイスラム教徒の娘と、性的少数者の父の触れ合いを通し、新たな愛の形を模索する。「アバウト・ア・ウーマン」は、厳格で裕福な60代の未亡人が、身の回りの世話係である親せきの少年に抱く淡い恋心を描く。未亡人の内に秘めた情熱を、往年の名女優トゥティ・キラナが繊細に演じ切っている。

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「タクシードライバー日誌」は、イスラム教徒のタクシー運転手が主人公。職場とモスクを行き来しながら、夜は家で悶々とアダルトビデオを見る日々。ある日、隣人女性が娼婦と知り、監視し、後をつけるようになる。「ラブリー・マン」同様、宗教と性、さらに暴力を並行して描いていく。すべてを飲み込み巨大化する首都、ジャカルタの闇を切り取った作品だ。

注目は主人公を演じたレザ・ラハディアン。インドネシア最大の映画賞で昨年、2作品で主演男優賞候補となった実力派だ。コメディーからシリアスまで幅広くこなし、作品ごとにまったく違った表情を見せる。昨年の東京国際映画祭で上映された歴史大作「民族の師 チョクロアミノト」では、インドネシア民族主義運動の指導者を熱演。今年公開された「マイ・スチューピッド・ボス(原題)」では、米国帰りで強烈な個性のビジネスマン役。ジャワ語なまりの英語で部下を振り回す“ボス”を演じて話題をさらった。

さらに、インドネシア映画史上最大級のヒット作「虹の兵士たち」のリリ・リザ監督新作「Emma' マザー」も見逃せない。前作の群像恋愛劇「再会の時 ビューティフル・デイズ2」とうって変わり、スラウェシ島南部を舞台に一夫多妻制に揺れる女性の心情を描く。原作はユスフ・カラ副大統領の母親の自伝。一夫多妻制は今回、カミラ・アンディニ監督が「ディアナを見つめて」でも取り上げており、インドネシア社会に根強く残る関心事といえそうだ。

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ところで筆者は現在、ジャワ島東端の東ジャワ州に住んでいる。地域社会に溶け込むべく日々過ごしているが、インドネシアは知るほどに深く、豊かで、多様な国だ。1万を超える島々、地域ごとに異なる言語、宗教、文化。「カラフル!インドネシア」で紹介される作品を見ても、この国を一言で表現するのは難しいと分かるだろう。コーヒーに心血を注ぐ青年。厳格な初老女性の純愛。タクシー運転手の憂鬱。一夫多妻に悩む妻たち。色とりどりの人々、物語が、この美しく広大な島国を形づくっている。

筆者紹介

遠海安のコラム

遠海安(とおみ・あん)。全国紙記者を経てフリー。インドネシア(ジャカルタ)2年、マレーシア(クアラルンプール)2年、中国広州・香港・台湾で計3年在住。中国語・インドネシア(マレー)語・スワヒリ語・英語使い。「映画の森」主宰。

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