コラム:下から目線のハリウッド - 第42回
2024年3月22日更新
日本とはちょっと文化が違う? ハリウッドの「映画評論」の世界
「沈黙 サイレンス」「ゴースト・イン・ザ・シェル」などハリウッド映画の制作に一番下っ端からたずさわった映画プロデューサー・三谷匠衡と、「ライトな映画好き」オトバンク代表取締役の久保田裕也が、ハリウッドを中心とした映画業界の裏側を、「下から目線」で語り尽くすPodcast番組「下から目線のハリウッド ~映画業界の舞台ウラ全部話します~」の内容からピックアップします。
今回は、ハリウッドの「映画評論」について解説していきます!
三谷:今回はハリウッドの映画評論サイト含め、ハリウッドに留まらず、いろんな映画評論の世界というのも話していければと思います。
久保田:そうですね。今回はリスナーさんから「ハリウッドにおける映画評論サイトの影響はどのようなものなのか」という質問をいただいていまして。日本でも予告編でIMDb、Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト)での評価が宣伝に使われていたりするけれど、ハリウッドでの映画評論サイトの立ち位置はどんな感じですか、ということです。
三谷:今おっしゃっていただいた評価サイトは、多少性質は違うものの、指標としてある程度は参考になると思っています。「IMDb」というは、「インターネット・ムービー・データベース」の略ですね。
久保田:「ラーメンデータベース」的な名前ですね(笑)。
三谷:そうですね(笑)。IMDbは、たぶん一番歴史も長くて、口コミ数も多く、世界的にも参考にされているウェブサイトだと思います。
久保田:そうなんだ。
三谷:基本的には視聴者の意見で、どの映画が面白かった、または、面白くなかったというのを星10個で評価します。
久保田:星10個。けっこう細かいんだ。食べログだと一般的に3.5くらいが基準みたいに言われるけど、IMDbの場合はどうなの?
三谷: 8.0を超えてたら、いい映画と言われますかね。あとはRotten Tomatoes。これ、日本語に直訳すると…。
久保田:「腐ったトマト」だよね。どういう意味なんですか?
三谷:昔、拙い演技やパフォーマンスに対してトマトや野菜を舞台へ投げつけるという表現が映画や小説のお決まりみたいにあったことに由来しているんだそうです。
久保田:へぇ~。
三谷:で、こちらはいわゆる映画評論家と言われる人が投票するサイトです。投票の仕方が「映画がイケてるかイケてないか?」という2択になっていて、「どれだけの割合の人がイケてると評価したか」という評価基準と、その映画を観たお客さんがどれだけ評価したかというのを、また別軸で採っています。評論家ウケはいいけど客ウケが悪い、というような指標に使われたりしますね。
久保田:なるほど。映画評論サイトって言ったら、この二つを押さえておこうっていう感じ?
三谷:そうですね。あと、それとは別に、各新聞社や媒体が、専属の評論家を雇って映画の評論をする世界があります。例えば、「ニューヨーク・タイムズの映画評論家」や「ロサンゼルスタイムズの映画評論家」のような仕事があってお給料をもらうわけです。
久保田:日本だとあまりないスタイルだね。
三谷:各媒体が出している評論というのは、ある程度、正式見解として出ていたりします。あとはもちろん各映画業界誌が出すレビューというのもあったりして。でも、どちらかというと新聞とかのほうが、ちょっと権威性はあったりするかなという印象ですね。
久保田:「ハリウッドで有名な評論家といえばこの人」みたいな人っているの?
三谷:2013年に亡くなってしまいましたが、ロジャー・イーバートは押さえておきたい人です。シカゴ・サンタイムズで映画評を書き続けていた人で、映画評論家としてはじめてピューリッツァー賞の批評部門を受賞していたりします。
久保田:めっちゃすごい人だ。
三谷:彼が星4個満点中4個と評価した映画は、大体良い映画だったりしますね。昔の日本で言うところの淀川長治さん的なポジションだったんじゃないかなと思います。
久保田:おー、懐かしい。ちょっと最初の話に戻るけど、「ハリウッドでの映画評論サイトの立ち位置はどんな感じか」というところで言うと、日本にもそれこそ淀川長治さんもいたし、映画評論家って呼ばれる人はいるけど、日本ってそもそも海外ほど評論の文化が一般的じゃないよね。
三谷:欧米だとディベート文化がありますからね。だから、事実と人を分けるような考え方ができるし、根拠を持って物事の良し悪しを論ずることもできるんだと思います。
久保田:特にアメリカだと、口喧嘩をしていても10分後には「メシ行こうぜ!」みたいな感じがあるよね。
三谷:そうですね。それはやっぱり、その人と意見とを分けているって感覚ですからね。日本の場合だと、感覚的にそこが一緒になりがちなのでネガティブな意見の応酬になってしまうことも多いですよね。
久保田:そうだねー。特に最近は、日本だと思ったこと言うと目につきやすいから、何かを評論するのも気を遣わないといけない空気があるよね。
三谷:やっぱり和を重視するのが日本の文化なので。十七条憲法の「和を以て貴しとなす」みたいな。
久保田:急な聖徳太子(笑)。
三谷:でも、映画を評論する人がいないと、見る側の指針もなくなっちゃう側面もあると思うので、評論を見る側のリテラシーみたいなものも必要ではあるのかなと思いますね。
久保田:ところで、三谷氏は映画レビューってどのくらい見る?
三谷:映画を観る前にはあまり見ないですね。どちらかというと観たあとに見ます。
久保田:あ、一緒だ(笑)。観た後に「おや?」って思う部分があったときとか、「みんなはどう思っているんだろう?」と思って見る感じ。
三谷:答え合わせのような感覚がありますよね。あとは、自分の感じ方と世間がどれだけ一緒なのか、あるいは違うのかみたいなのは気になってしまいますよね。
久保田:気になる。でも、観た後にいい映画だなと思ったらレビューは見ない。
三谷:それは、ある意味、一番いいレビューとの付き合い方かもしれないですね(笑)。
この回の音声はPodcastで配信中の『下から目線のハリウッド』(#136 文化が違う!? ハリウッドの「映画評論」事情!)でお聴きいただけます。
筆者紹介
三谷匠衡(みたに・かねひら)。映画プロデューサー。1988年ウィーン生まれ。東京大学文学部卒業後、ハリウッドに渡り、ジョージ・ルーカスらを輩出した南カリフォルニア大学の大学院映画学部にてMFA(Master of Fine Arts:美術学修士)を取得。遠藤周作の小説をマーティン・スコセッシ監督が映画化した「沈黙 サイレンス」。日本のマンガ「攻殻機動隊」を原作とし、スカーレット・ヨハンソンやビートたけしらが出演した「ゴースト・イン・ザ・シェル」など、ハリウッド映画の製作クルーを経て、現在は日本原作のハリウッド映画化事業に取り組んでいる。また、最新映画や映画業界を“ビジネス視点”で語るPodcast番組「下から目線のハリウッド」を定期配信中。
Twitter:@shitahari