コラム:清水節のメディア・シンクタンク - 第7回

清水節のメディア・シンクタンク

上映開始! 4DXの効果のほどは?

いよいよ上映開始。「アメイジング・スパイダーマン2」の鑑賞自体は2度目だった。散りばめられたバトルシーンで4DXは大活躍するのだろう…という事前の読みは覆された。要所要所で作動するのではなく、冒頭から惜しみなくフル稼働することに、まずは驚かずにいられない。場面内で起きていることに対し、9つの機能が敏感に身体に働きかける。例えば、スパイディ・ダイビング。スパイダーマンがNYの街を飛び回る飛翔の表現は見事だ。ビルの屋上から遙か地上を見下ろすショットに合わせ、シートがゆっくりと前方に傾き、身体は思わず前のめりになる。スパイダーマンが身を投げ出すと、落下とともに前方から強いエアーが顔面に吹き付けられる。蜘蛛の糸を頼りに、縦横無尽に宙を舞う際は、天井の強力なファンによる風圧が襲ってくる。さらにシートが身体を揺さぶる。この座席駆動は、想像を遙かに超える激しさだ。テーマパークのアトラクションならば、シートベルトやバーでホールドされる程に身体は荒々しく弄ばれるが、ムービングシート上では全くの無防備である。まるで、手綱のない暴れ馬に乗ってしまったかのよう。暴走アーマーことライノのカーアクションには要注意。シートからずり落ちそうになり、肘掛けをつかんで体勢を立て直すこともしばしば。衝突シーンでは、大腸も揺さぶられる衝撃だから覚悟せよ。全く予期しなかったのは、殴り合いや攻撃を受けるシーンでの効果。シートの背に潜んでいた球体のようなものがせり出して、なんと背中を叩きやがった! 怒れる高圧電流野郎エレクトロがタイムズスクエアに現れたら、4DXはフォッグも駆使して、観る者を阿鼻叫喚の事態に陥れてくれるから期待してほしい。待てよ…そういえば、匂いやシャボン玉の効果が作動したかどうかは確認できなかった。

筆者からのアドバイス。事前に通常版を鑑賞しておくこと。間違っても二日酔いの状態では臨まぬこと。コンディション良き日に、手ぶらでシネコンを訪ね、無心に着席することをオススメしよう。ストーリーを追うことや感情移入することからも距離を置き、徹底的に受け身になった方が楽しめる。作品の出来がイマイチなアクション映画でも、4DX化すれば見まがうほどの傑作に変貌するケースもあるかもしれない。4DX版の過去作をリバイバル上映する機会も増やしてくれれば、劇場の可能性が拡がることは間違いない。

とはいえ、まだまだ進化の余地はある。IMAXや3Dが、映画の作り手の意図の下に採用される視覚的なシステムであるのに対し、4DXは、アクション映画をモチーフに画面内で起きていることに応じ五感に訴える身体的なシステムだ。言わば、映画に解釈を加える表現の一種であり、別の媒体ともいえる。今後は9つの機能を組み合わせ、もっと微細な効果を創出することも追求すべきだろう。客席のみならず劇場そのものが一体化して動くという方向性もあるのではないか。あるいは、既存の映画ではなく、4DX専用の20~30分のオリジナル・コンテンツの開発も考えられる。何らかのメッセージを受け取るのが映画なら、マッサージを受けるつもりで身を委ねるのが4DXだ。さらに言わせてもらうなら、4DXとは“いたぶられる”ことに快楽を見出す、過激でマゾ的な装置である。

サンシャイン平和島は、4DXと同時に隣のシアターに「ドルビーアトモス」も導入。2年前に導入した日本初の「imm sound」も稼働中のシアターゆえ、2つのシステムを兼ね備え音響環境に特化した「アメイジング・サウンドシアター」としてリニューアル・オープンした。全国12劇場97スクリーンのシネマサンシャインを展開する佐々木興業の佐々木伸一社長は、映画館を取り巻く環境が厳しくなる一方の時代にあって「体感」こそ重要なファクターであると捉える。4DX東京初上陸を決断したことについて訊ねると、「本音を言えば先行者メリットを享受したかった。このスクリーンでは今後、アクション映画等の4DX版だけを上映していきます」と語る。攻めの姿勢を見せ続けるシネマサンシャインだが、今回の平和島の4DX+ドルビーアトモスの後も、さらなるビッグプロジェクトを準備しているようだ。詳細はいずれ明らかになるはず。楽しみに待っていてほしい。

筆者紹介

清水節のコラム

清水節(しみず・たかし)。1962年東京都生まれ。編集者・映画評論家・映画ジャーナリスト・クリエイティブディレクター。日藝映画学科中退後、映像制作会社や編プロ等を経て編集・文筆業。映画誌「PREMIERE」やSF映画誌「STARLOG」等で編集執筆。海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」日本上陸を働きかけ、DVD企画制作。著書に「いつかギラギラする日/角川春樹の映画革命」、新潮新書「スター・ウォーズ学」(共著) 。WOWOWのノンフィクション番組「撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画制作でギャラクシー賞、民放連賞最優秀賞、国際エミー賞受賞。