「コンドル」「ラルジャン」 : 芝山幹郎 テレビもあるよ

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コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第28回

2011年8月30日更新

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、毎月、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「コンドル」

素晴らしきヒコーキ野郎たちの友情と恋を描いた冒険映画 素晴らしきヒコーキ野郎たちの友情と恋を描いた冒険映画 写真:Album/アフロ [拡大画像]

昼はアクション、夜はロマンス。

ある種の男にとっては理想の生活だ。少なくとも私は、30代前半のころ、こういう生活をめざしていた。結果は、まあ……いいところ、マイナーリーガーの域を出なかったのであるが。

コンドル」で描かれているのはそういう生活だ。この映画を初めて見たのはずっと前のことだが、なぜか私はそんな印象を抱きつづけていた。

が、久しぶりに見直してみると、微妙に印象が異なる。あえて要約するなら、昼はアクション、夜もアクション、ときどきまじるロマンスのしぐれ、といった感じだろうか。

映画の舞台は南米のバランカという架空の町だ。主人公ジェフ(ケイリー・グラント)は郵便空輸会社のエース・パイロットだ。彼は、同僚や部下を率いてアンデスの山間部を飛ぶ。天候は変わりやすく、雨と霧に閉ざされた峡谷は危険きわまりない。

そんなバランカへ、ニューヨークの女歌手(ジーン・アーサー)が立ち寄る。かつて副操縦士を見殺しにしたいわくつきのパイロット(リチャード・バーセルメス)もやってくる。一緒についてきた妻(リタ・ヘイワース)は、かつてジェフとわけありだったようだ。

というわけで、話の糸はもつれる。が、ハワード・ホークスの語り口はいつにもまして好調だ。ドライでコミカルでテンポがよく、素早く動いて、感傷やメロドラマにつけ入る隙を与えない。にもかかわらず、映画の底には男たちの率直さと男たちの哀愁が一貫して流れる。友情とスリルと恋の駆け引きを乗せて「コンドル」は空を飛ぶ。ホークスのトップ・スリーを選べといわれたら、私はたぶんこの映画を入れてしまうだろう。

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コンドル

BSプレミアム 9月5日(月) 13:00~15:05

原題:Only Angels Have Wings
監督・原作:ハワード・ホークス
撮影:ジョセフ・ウォーカー
出演:ケイリー・グラントジーン・アーサーリタ・ヘイワースリチャード・バーセルメス
1939年アメリカ映画/2時間5分

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「ラルジャン」

“ゼニ”の恐ろしさを描いたブレッソン81歳の遺作 “ゼニ”の恐ろしさを描いたブレッソン81歳の遺作 (C) 1983 Marion's films / FR3 / Eos Film-Chene Bourg [拡大画像]

私は、ロベール・ブレッソンの映画を好きになったことがない。愛着を感じたこともない。たぶん、笑わせてくれないからだ。広がりを感じさせてくれないからかもしれない。

だが、彼の映画を無視したり軽視したりしたことは一度もない。好きではないが、興味深い。楽しくはないが、面白いのだ。

なによりも、場面のはしょり方に刺激を受ける。物音の使い方も面白い。台詞の少なさに身を乗り出す。上映時間の短さと歩幅の大きさの対照は、実に興味深い。

「ラルジャン」も、このパターンにぴったり当てはまる。ブレッソン81歳の遺作。高齢のことをつべこべいうのは嫌だが、この切れ味は特筆すべきだ。短気と見まがう頭脳の回転にも拍手したい。

いうまでもないが、ラルジャンとはゼニのことだ。甘ったれの高校生が500フランの贋札を作り、写真屋で使う。写真屋は警察に届け出るのを面倒くさがって、給油の料金を贋札で払う。知らずに受け取った給油所の青年は、贋札使いの汚名を着せられる。

話の飛距離は、そこからぐんと伸びる。馬鹿な子供のいたずらが、絶望的な悲劇を招き寄せる。軽率な行動や安直な嘘が、とんでもない行動へと結びついていく。

金の毒がまわるのか、と私は思った。それほどまでに汚染は速い。痛ましくて、辛辣で、世間を呪っているようなタッチだ。原作はトルストイの短篇だが、映画にはお説教臭さはみじんもない。あるのはむしろ、なにもかもを突き放したような虚無感だ。

それにしても、ブレッソンの映像からは、もののみごとに説明的なシーンが排除されている。90分弱という上映時間は、この省略の産物だ。彼は、「同じシーンを二度撮らない」という掟を守った。相当の意地っ張りでなければ、この掟は守れなかったはずだ。

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「ラルジャン」

WOWOW 9月22日(火) 10:00~11:25

原題:L’argent
監督・脚本:ロベール・ブレッソン
原作:レオ・トルストイ
出演:クリスチャン・パティカロリーヌ・ラング、バンサン・リステルッチ
1983年フランス=スイス合作/1時間25分

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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