「マーニー」「パーフェクト・ワールド」 : 芝山幹郎 テレビもあるよ

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コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第13回

2010年12月14日更新

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、2週間に1度、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「マーニー」

後にドヌーブやナオミ・ワッツも「演じてみたかった」と口をそろえた、美人の金庫破りマーニー 後にドヌーブやナオミ・ワッツも「演じてみたかった」と
口をそろえた、美人の金庫破りマーニー
写真:Album/アフロ [拡大画像]

ヒッチコックはマーニー役の第1候補にグレース・ケリーを想定していた。このときケリーは、すでにモナコ王妃の地位にある。しかしヒッチコックは、「マーニー」がケリーの映画界復帰第1作にぴったりと考えたのだ。

ご存じのとおり、この企画は流れた。モナコ国民が「王妃に泥棒の役をやらせるな」と反対したためだ。だがヒッチコックは、ブロンド女優にこだわった。エバ・マリー・セイントリー・レミックらが候補に挙がった末、主役はティッピ・ヘドレンに落ち着いた。

このキャスティングにはさらに逸話がある。後年、「マーニー」を見たカトリーヌ・ドヌーブナオミ・ワッツらが「私もやってみたかった」と口をそろえたのだ。その気持はわかる。マーニーは、女優ならば(とくにブロンド女優ならば)一度はトライしてみたい役柄にほかならないのだ。

最大の理由はヒッチコックの演出だ。「マーニー」でも、彼一流のつかみの巧さには舌を巻かされる。黒髪で黒っぽい服を着ていたマーニーがホテルの一室で光り輝くブロンドに変身する場面などは、先につながる山あり谷ありの展開を予感させてくれるではないか。

ただし、プロットにやや弱点があり、ヘドレンの相手役ショーン・コネリーの芝居が軽すぎるために、ヒッチコックの狙いは十全に果たされていない。泥棒で嘘つきで赤い色に対して異様な反応を見せる無意識過剰の女に、男やもめの富豪がなぜ偏執的な欲望を抱くのか。この部分の彫りが深かったら、「マーニー」はもっとスリリングで、もっとエロティックな映画になったと思う。

それでも、マーニーが出版社の金庫室を出ようとするときの構図の面白さや、彼女が豪華客船のプールで自殺に失敗するときの台詞のおかしさなどは、さすがにヒッチコックだ。傑作とはいえぬにせよ、「マーニー」は彼晩年の佳作と呼んでさしつかえないだろう。

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マーニー

NHK衛星第2 12月17日(金) 13:00~15:11

原題:Marnie
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ティッピ・ヘドレン、ショーン・コネリー
1964年アメリカ映画/2時間10分

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「パーフェクト・ワールド」

1963年夏のテキサスを逃亡するブッチ(ケビン・コスナー)とフィリップ(T・J・ロウザー) 1963年夏のテキサスを逃亡するブッチ(ケビン・コスナー)と
フィリップ(T・J・ロウザー)
写真:Moviestore Collection/AFLO [拡大画像]

「子は人の父(The child is the father to the man.)」という成句がある。意を汲んで訳せば「三つ子の魂、百まで」という感じだろうか。もとはW・ワーズワースの詩句だ。

パーフェクト・ワールド」を見ると、私はこの成句を思い出す。わかる人には、こういうだけで伝わるかもしれない。おや、と思った方は映画を見直していただきたい。私はそんなにややこしいことをいっていないつもりだ。

ご承知のとおり、映画の軸には脱獄犯ブッチ(ケビン・コスナー)と人質にされた少年フィリップ(T・J・ロウザー)の交流がある。ブッチは、10歳に満たないフィリップを伴い、1960年代初頭のテキサスを逃げ回る。追跡するのは、保安官のレッド(クリント・イーストウッド)をはじめとする捜査陣だ。

だが映画の眼目は、逃げるブッチと追うレッドの関係ではない。監督イーストウッドが凝視するのは、「凶悪犯にもナイスガイにもなりうる」ブッチと「困り者にもキュートにもなりうる」フィリップのちょっと複雑な交流だ。そしてもちろん、ふたりが転々と場所を移動する以上、映画はロードムービーの味わいも滲ませはじめる。

パーフェクト・ワールド」の魅力は、そんな彼らを描き出す際の、独特の距離感にある。イーストウッドは、犯罪者の実像を描き出そうとしているのではない。児童心理の真実に迫ろうとしているわけでもない。だが彼は、犯罪映画の皮膚の下に潜り込み、人間が背負いつづける傷の実態に光を当てようとする。

するとわれわれには、暴力の連鎖が生まれる理由が見えてくる。ブッチが体内に飼いつづける「三つ子の魂」も見えてくる。ブッチは、フィリップが自身の鏡であることに気づいている。銃社会批判だの、ストックホルム症候群の一例だのとどこかで聞いた決まり文句などつぶやかずに、イーストウッドが奏でるハートの響きに耳を傾けてほしい。

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パーフェクト・ワールド

NHK衛星第2 12月28日(火) 15:35~17:55

原題:A Perfect World
監督:クリント・イーストウッド
出演:ケビン・コスナークリント・イーストウッドローラ・ダーン
1993年アメリカ映画/2時間18分

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[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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