コラム:師匠に会える映画館 話題の「ODS」で落語を見に行こう! - 第2回
2013年7月5日更新
歌丸師匠が語る「怪談 牡丹灯籠」
落語中興の祖・三遊亭圓朝の作と知られる「怪談 牡丹灯籠」。カランコロンと下駄の音を響かせて若い浪人のもとに通う若い女の幽霊。この呪われた因縁話を軸に、様々な男女が絡み合う愛憎劇は、全編22章からなる一大サーガとも呼ぶべきもの。落語はもちろん歌舞伎でも人気の演目であり、最近では映画「クロユリ団地」のベースになったことでも知られている。この度、仁左衛門、三津五郎、玉三郎らが演じた2007年の舞台が「シネマ歌舞伎 怪談 牡丹燈籠」として映画館で上映されることとなり、この「牡丹灯籠」を始め「真景累ヶ淵」「乳房榎」など圓朝作の怪談、長講をライフワークとしている落語家の桂歌丸師匠が、その魅力を存分に語ってくれた。
「そもそも歌舞伎を見始めたのは師匠の(五代目古今亭)今輔に言われたからなんですよ」と語る歌丸師匠、「今考えてみると歌舞伎から学んだんですね、形や間を。扇子や手拭いの使い方、話と鳴り物のタイミングとか、本当に勉強になりましたよ」と続けた。「私が若い頃は役者衆とも関係が近くてね、(三代目河原崎)権十郎さんや(九代目澤村)宗十郎さんには親しくしてもらっていて、分からないことがあって楽屋に行くと、毎回丁寧に教えて下さったものです。また、お二人ともよく国立演芸場に落語を見にいらしてました」と懐かしそうに続けた。
「『質屋蔵』という落語で最後に天神様(菅原道真)が出てくるんですが、これをどういう風に演じていいのか見当が付かない。それで歌舞伎の「菅原伝授手習鑑」を見て参考にして高座でやったら、山崎屋さん(権十郎)から「あなたが熱心に歌舞伎を見に来る理由が分かりました」と言って頂いて。嬉しかったですね」。
ただ、落語と歌舞伎の違いも感じていて「『幸手堤』のお峰殺しの場面、落語だと「ザックリと斬りつけた」の一言なんですが、歌舞伎は延々と凄惨な殺害現場を再現しています。逆にお峰が馬子の男から亭主の悪事を聞き出す場面、歌舞伎はさっさと終わりますが、落語はお峰がなだめすかしてようやく喋らせる」。全般的には歌舞伎は超一級の役者たちが演じるだけあって、落語に比べると少しキレイすぎるかな、という感想を持っているようだ。
「ご自分が演じてて一番楽しいキャラクターは?」という質問には「断然、伴蔵です。私の場合は徹底的な悪として演じています。もともと気の弱い男が完全な悪へと変わっていく、その課程を演じるのが楽しいんです。『累ヶ淵』の新吉に似てますね」とこれまでの高座を思い出すように語る。
怪談の魅力に関しては「なんと言っても怖がってもらえること、それが醍醐味です。でも、演らせてくれるお客様がいて、初めて成立できる。聞いてくれる人がいること、それが一番大事なんです」。
そのための工夫も欠かさない。過去には会場を暗くして生きたホタルを飛ばしたことも。着物ひとつにしても「それぞれのキャラクターを掘り下げて、どんな着物を着ているかを決めます。それとは別に、何回も通って下さるお客様がいるので、その方に「毎回同じ着物じゃないか」と思われないように、夏の着物は毎年4、5枚は作ります。女房には怒られっぱなしですよ」。また、体質的にも怪談に合っているらしく「汗まみれで恐ろしい話を熱演しても、ちっとも怖くない。幸か不幸か、私は顔に汗をかかないんです。でも医者にはそれじゃダメだって言われてますけど」。
この夏は同じ圓朝師、最大の長講「真系累ヶ淵」の完結編「明神山の仇討」に挑戦する。昭和の名人・三遊亭圓生(六代目)も、怪談話の達人・林家正蔵(八代目)も演じていない、いわば「幻の落語」だ。「これがないと『累ヶ淵』全ての因果関係がまとまらないんですよ。いわばミステリーのタネ明かしなんです。だから、なんで誰も演っていないのか不思議なんですよ。もともと短い話なので、今回は色々と演出を加えてあります。記録に残っていない演目なので再現するのは大変でしたね」。落語家になって63年目の夏、師匠の挑戦は続いている。
▽牡丹灯籠 あらすじ
美男の浪人・萩原新三郎に恋した旗本の娘・お露は、恋わずらいの末に命を落とす。その夜から新三郎の屋敷には、やはり命を絶った下女・お米を伴ったお露の幽霊が、牡丹灯籠を手に毎晩通うようになる。医者の山本志丈は新三郎が女の霊に取り憑かれていることに気づき、仏像とお札によってこれを封じようとするが、新三郎の下男・伴蔵の裏切りによってお守りは効力を失い、家の中に霊たちを招き入れてしまう……。「シネマ歌舞伎 怪談 牡丹燈籠」は、7月6日から12日まで、全国27館で上映。