コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第90回
2020年12月23日更新
大統領もコロナ感染のフランス 映画館再休館に俳優、映画業界が声明 今後の映画祭、新作公開は?
2020年12月23日更新
ついにマクロン大統領までコロナに感染したフランスは、年明けまで夜間外出禁止、また芸術分野は「必要不可欠なものではない」とされ、映画館なども休館を迎えたままだ。
もっとも、これに対して業界人からかなりの反発が上がっている。イザベル・アジャーニ、ジャンヌ・バリバール、シャルル・ベルリングなどが先頭に立ち、政府が文化の重要性を軽んじていることを批判。映画監督協会も、政府に宛てた公開レターで、厳しい衛生基準を守っているシアターが、デパートやショッピングモールに比べて危険とする根拠がないとして抗議を表明した。またプロデューサーで配給会社を経営するソフィ・デュラックが音頭を取り、44人のアーティストが声明を寄せた「映画はなぜ必要不可欠なのか」と題したオンライン・ブックも発表した。これは無料でダウンロード(www.dulaccinemas.com)して読むことができる。
振り返ってみれば、今年は3月の最初のロックダウンに始まり、フランスの映画業界はコロナに振り回されているうちに終わりを迎えてしまった。これが果たしていつまで続くかわからない、というのが最大の問題である。再開のメドが立たないため、これまでに公開を延期した作品や新作がどんどん溜まり、現状では3月あたりがもっとも公開ラッシュとなりそうだ。
映画祭も上半期はまだ影響があるだろう。すでに来年1月末に予定されていたロッテルダム映画祭と、2月のベルリン映画祭は、ともに第1弾のオンラインと第2弾のフィジカルな開催の2本立てにすることを発表した。ロッテルダムは2月1日から7日まで、コンペティション部門などをオンラインでおこない、その後6月頭に、展覧会やイベントなどを開催する。今年から新ディレクターに就任したロッテルダムのバニャ・カルジアセッチは、「映画人や業界をサポートする上でも、一般観客にとっても、これが最良の方法という判断だった」と語っている。
一方ベルリンは、一旦はフィジカルな開催を3月にずらす意向を表明していたが、政府の了承を得られず断念。詳細はまだ不明なものの、マーケットは3月頭にオンラインで開催し、その後一般向けの行事を6月に予定している。
ところで、毎年この時期になると賞レースの話題が持ち上がるが、アカデミー賞の国際長編映画賞のフランス代表に決まった「Deux」が注目を集めている。今年のカンヌ・レーベルに選ばれたフランソワ・オゾンやマイウェンの新作を退けてその座を獲得したのは、これが初長編の新鋭フィリッポ・メネゲッティ。バーバラ・スコバと仏国立劇団、コメディ・フランセーズの名女優マルティーヌ・シュバリエが、女性カップルに扮する。
表向きには親友としてアパートの隣同士に住む彼女たちは、長年愛し合う仲だったが、片方が病に倒れたことで、家族にも知られることになる。熟年層のLGBTQをテーマに、純粋に愛し合う者たちの姿をしっとりと美しく描き、社会的なテーマと普遍的な感情を融合させ、観る者の心を揺さぶる。個人的にはアカデミー賞の最終ノミネーションに残る可能性はかなり高いと思うのだが、果たしてどうなるか、期待して待ちたい。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato