コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第66回
2018年12月20日更新
マンガ・アニメを通して都市<東京>を体感する展覧会が、パリで開催
いまや外国人にとって、マンガは立派な日本文化のひとつだ。特に日本アニメファンの多いフランスでは、「マンガ」という言葉は定着し、毎年7月にパリで開催されるジャパン・エキスポの来場者はすでに20万人を超え、その数は年々増えるばかりだ。
そんななか、日仏友好160周年を記念した芸術の祭典「ジャポニスム2018:響きあう魂」の一貫として開催されたのが、パリのヴィレット公園の一角にある複合文化施設を使用した、「MANGA ⇔ TOKYO」(https://lavillette.com/programmation/manga-tokyo_e32)展である。ちなみに本展は、2015年に国立新美術館で開催された「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム」の第2弾に当たり、東京という街の特徴が、マンガ、アニメ、ゲームにいかに映し出されてきたか、その相互関係を示す。多数の原画や模型、映像を通して、現実の都市の特徴がフィクションに影響を与え、それを方向付けてきた様子を、海外の観客にわかりやすく示す。
本展のキューレーターを務め、オープニングに訪れた明治大学准教授の森川嘉一郎氏は、東京の特殊性とそこを舞台にした日本のマンガ、アニメ、ゲームの特徴をこう解説する。「東京はこれまで何度も地震や火災による破壊を被ってきました。ただしパリのようなヨーロッパの都市と異なるのは、そのたびに復元されるのではなく、新しい街が構築されたことです。ですから今ある街それ自体よりも、時代ごとにそれを反映してきたフィクション、つまりマンガやアニメの作品群の方が、ある意味歴史を積み重ねていると言えます」
建物の入り口の両サイドに並んだ看板は、左が秋葉原、右が池袋の乙女ロードのファサードを再現したもの。ビジターはここで東京の街の洗礼を受け、さらに「俗から神聖な領域に入る」神社の仲店の配置を意識したというブティックを通り抜けて会場にたどり着く。
入ると目の前に広がるのが、吹き抜けの広々とした空間を利用した、東京の1000分の1の模型とスクリーンだ。スクリーンには本展で紹介されている作品の映像が映し出され、その舞台がどの辺の地域であるかも連動して示されるため、物理的、地理的感覚を体感できるという仕組みである。
吹き抜けの空間を取り囲む上階の展示場には、まずは東京の「破壊者」である怪獣たちのフィギュアや、都市の破壊と再生を背景にした「アキラ」「新世紀エヴァンゲリオン」といった海外にも馴染みの作品が紹介され、人智を超えた存在が都市を破壊する日本の作品の特徴をクローズアップする。
その後は、江戸時代から現在に至る都市の歴史を3つのセクションに分けて、さまざまな作品が紹介される。ビジターはここで時間軸に沿って、江戸時代の生活様式、東京が第2次大戦による瓦礫の山から復興し、急成長を遂げた後、2000年代には景気後退のために市民生活も変化を迎えるさまを、時代ごとの作品を通して感じることができる。
最後は「都市のキャラクター」をテーマに、初音ミクなど人気キャラクターのフィギュアを展示。さらに東京の生活を実感できるように、電車の車両やコンビニまで再現されているのがすごい。
特にマンガやアニメファンでなくても、それらを通して東京の歴史や市民生活が伺えるのは、幅広い観客層にアピールしそうだ。子供から大人まで、さまざまな楽しみ方ができる展覧会という印象を受けた。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato