コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第56回

2018年2月26日更新

佐藤久理子 Paris, je t'aime

ハリウッドからのセクハラ騒動 フランスでは未来に向けた具体策を求める動き

♯metoo運動に警鐘を鳴らしたカトリーヌ・ドヌーブ
♯metoo運動に警鐘を鳴らしたカトリーヌ・ドヌーブ

ハリウッドのプロデューサー、ハーベイ・ワインスタインのセクハラ騒動に端を発した映画業界のスキャンダルは、止どまるどころか益々波紋を広げているが、その波はフランスにも届いている。♯metooをはじめ、セクハラの被害者が加害者を告発する♯balancetonporc(豚を告発しろ)といったムーブメントが一挙に拡散した。

そんな折、カトリーヌ・ドヌーブを始めとする著名な女性100人が、こうした風潮に歯止めをかけるような公開レターを全国紙ル・モンドに掲載したため、さらに炎上を招くことになった。公開レターのなかでドヌーブらは、「権力乱用を非難する以上に男性や性的なものを憎悪するようになっている」として、「強姦は犯罪だが、女性を口説こうとするのは犯罪ではない。(中略)性的な自由にはつきものの、口説く自由を認めるべき」と、清教徒的な潔癖主義の行き過ぎを非難した。だがこの書簡は論争を巻き起こし、首相付き男女平等副大統領のマルレーヌ・シアパ女史までが、性暴力の問題を矮小化する危険があると指摘。こうした非難を受けてドヌーブは、今度はリベラシオン紙に新たな書簡を寄せ、自分は自由な女性であり、ハラスメントを擁護するつもりはなかったとしながらも、先の公開レターによって傷ついた当事者には謝罪したい旨を明らかにした。

一方、70年代の自由な女性のシンボルと目されたブリジット・バルドーは雑誌の取材で、「女優の多くは偽善者。役を得るためにプロデューサーを誘惑し、後になってハラスメントを受けたと語る」と、彼女らしい歯に衣着せぬ物言いをしている。

たしかにこの問題は、すべてのケースを一般化して論じることはできないし、アメリカとフランスでは文化や習慣も異なるゆえに、同じ土俵で論じることは困難かもしれない。セクシュアルおよびパワーハラスメントを許すということではなく、何を持ってハラスメントと受け取るかということに対する意識の違いがあるのではないだろうか。ドヌーブが、「仕事のディナーで膝を触ったりしただけ」で糾弾される必要はない、と考えるように。

他にも、この問題に言及する女優たちは跡を絶たない。イザベル・ユペールは、ドヌーブの公開レターは読んでいないと断りつつ、「どんな場合でも、女性が自由に表現できる場は大切だし、ハラスメントに対しては恐れずに言及していくべき」と発言。カリン・ビアールは、「被害に遭った女性たちが一般の耳目に晒されるという恐れを抱くことなく、安心して訴えることができる司法システムの確立が必要」と唱えている。「パターソン」などで知られるイラン系の女優ゴルシフテ・ファラハニは、「男性はたぶんどこかで女性のことを恐れていると思うが、まずそういう気持ちを持つのをやめるべきではないか。そして抑圧する代わりに女性たちに権力を与え、尊敬を寄せるべき」と語っている。

ともあれ、こうした風潮を受けてフランスでは、make.orgのような、セクシュアル・ヴァイオレンスに反対し、被害者の受け皿となる団体が増えている。さらに法的な対策の設置をマクロン大統領に請願するために、署名を募る窓口♯1femmesur2もある。

魔女狩りならぬ“カサノバ狩り”になるだけではなく、未来に向けた具体的な対策を求める動きが出るあたりは、フランスらしいと言えるかもしれない。(佐藤久理子)

筆者紹介

佐藤久理子のコラム

佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。

Twitter:@KurikoSato

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