コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第5回
2015年11月18日更新
奥田庸介監督「クズとブスとゲス」、第16回東京フィルメックスのコンペ部門で上映!
「映画を撮っているけど、映画からもはみ出したい」。そう語るのは、2008年と09年にゆうばり国際ファンタスティック映画祭に入選し、11年には大森南朋主演映画「東京プレイボーイクラブ」を手がけた奥田庸介監督だ。
香港映画界が誇る巨匠ジョニー・トーが「恐るべき監督が出現した」と絶賛した、この奥田監督の最新作「クズとブスとゲス」は、クラウドファウンディングのプラットフォーム「MotionGallery」によって資金調達を達成。11月21日から開催となる「第16回東京フィルメックス」で上映が決定している。
同作は、女を騙しては強請りを働く卑劣な売人と、ヤクザ、夜の女など、日陰で生きる人間の運命が交錯する群像劇。監督の奥田自身が映画にも出演し、ひりつくほどに痛く人間らしい“新世代のジャパニーズ・バイオレンス”となっている。
今回は、奥田監督と「東京フィルメックス」のプログラムディレクター市山尚三氏との鼎談が実現。作品作りに至る苦労、クラウドファウンディングで映画を作ること、映画祭などについて、それぞれの言葉で語った。
映画監督としてのプライドが映画製作を遠ざけた
―まず奥田監督に「クズとブスとゲス」の制作を、クラウドファウンディングで行おうと考えた経緯をお聞かせ願えますでしょうか?
奥田監督:以前「東京プレイボーイクラブ」(11年)という映画を作ったのですが、次につながらなくて映画を撮れない状況が続き、「もう終わりかな」と思う状況が続いていて、仕方ないからアウトローになろうと思って、夜の世界に飛び込んだけど、恐くて戻ってきたりして。その後に映画の依頼が無かったわけじゃないですけど、アイドルを起用した映画だったりして、それじゃ俺の中の映画への情熱がたぎらないなと断っていました。俺、7割くらいの情熱じゃ映画撮れないんですよ。
それで、世間からも忘れ去られてグダグダ生活していたら、兄に「もうすぐ30歳なのに何やってんだ!」と言われて。俺は「映画が撮りたい!」と。脚本は書き続けていたので、クラウドファウンディングで始める事になったのです。
―大高さんは今回のプロジェクトを聞いた時に、率直にどの様に思われましたか?
大高:もともとのお話は監督のお兄さんからいただいて、監督の作品は以前から拝見していたのと、今回の企画を聞いてすごく楽しそうだなと。他のプロジェクトだと、監督かプロデューサー、もしくはその2名が段取りをして進めるという事が多いのですが、「クズとブスとゲス」については、最初から3、4人のチームで動いていて熱量を感じたんですよね。クラウドファウンディングがスタートしてからも、監督やスタッフさん、周りの方がSNSで熱心に告知していたり、プロジェクトの進捗を動画で紹介したりと、企画も多くやられていました。
一生懸命稼いだお金を映画に使う意味の重さ
―無事、目標金額が達成してクラウドファウンディング成功となったわけですが、今のお気持ちはいかがでしょうか?
奥田監督:今回、100万円目標のところを160万2,500円集まって、達成はしているのですが、高校の時の美術の先生が一人で100万円出してくれているんです。だから、心の中では堂々と達成したとは言えないなという気持ちもあります。一生懸命働いて稼いだお金を映画に使う、という意味の重さを感じる事になって、先生以外のお金を出した30人ほどの方のために、死ぬ気で映画作ってやろうって奮いたちましたよね。
―監督はその先生とは親しく交流を持っていたのですか?
奥田監督:俺と兄貴と弟が全寮制の厳しい高校に通っていて、全員美術部だったので、その先生とは関わりがすごく強い。先生も画家でありながら、学校で美術を教えているので、俺の悩みとか考えとか分かってくれて、共感してくれてるんですよね。だから最初から「足りなかったら俺出すから」って言ってくれていて。こないだも電話したら「もうすぐ定年になるから。退職金も出るからな」と言っていて、その退職金で一本撮れるかな、なんて思って(笑)。完成した映画を観てくれて「面白い」と、「東京プレイボーイクラブ」では褒めてくれなかったのに、これは褒めてくれました。
―市山さんは、本作のどの様な所に惹かれて「東京フィルメックス」での上映を決めたのですか?
市山:「東京プレイボーイクラブ」は当時偶然試写会で観て、すごく面白いなと思って「第12回東京フィルメックス」で上映させていただきました。今回新作が出来て楽しみに拝見して、思い切った方向に行ったな、と良い意味で驚きました。制作の背景やクラウドファウンディングで資金を集めた事などは知らなかったんですが、これまでの作品よりも遥かに作家性が出ていて、これは是非もう一度「東京フィルメックス」で上映したいと思いました。とはいえ、良い作品だからと言って必ずしも当たるとは限らないし、この作品の方向性では難しい部分もあるのかなとは思いました。そこをクラウドファウンディングで資金を集めてサポートしていくというのは面白い取り組みだと思いましたね。こうやって、資金を集めて映画を完成させるのは、インディペンデントで活動している監督には励みになるんじゃないでしょうか。