コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第3回

2015年9月25日更新

メイキング・オブ・クラウドファンディング

制作の過程で作品に「にじり寄る」

大高:特殊な形態ゆえ、作品を作っていく過程では苦労されたことも多かったのでは。

大西:中村さんの作品制作に対する熱量ゆえに最後までこぎつけました。常になにかが足りていなかった。お金も足りていなかったし、スタッフもいないし、主人公であった内藤さんですら撮れない。でも中村さんには常にそれを上回る熱量が大量にありました。中村さんは、どうやら熱量の切り替えスイッチみたいなのがあるんです。作り手として没入している時と、今日のように取材に応じるときで少し変わる。没入しているときの熱量はすごいんです。

中村:そうですね。作り手モードになっていた時は意識的にいろんなことをシャットアウトしていました。電話をとらない、外の世界に関わらない、とか。作品をつくっている時ってある意味悪魔的になるんですよ。きれいごとではないし、エゴもワガママも、全部出るものだし、結局自分のイメージを信じていくしかないわけだから。そういう部分は外に出さず、自分の中で消化して、みなさんと一緒にやっていくという感じかもしれない。だからできるだけシャットアウトする。

大高:制作の上で最も辛かったのはどの時期ですか。

中村:常に不安でしたが、特に編集が一番葛藤がありましたね。実は撮影時は、構成も書いて絵コンテも描いて、本当に映画の脚本みたいに進めていったんです。プロットどおりに撮り終えて、これで作品になる、という感じがあったのですが、そこから悩みましたね。何かを参考にしたくても、過去作品でリファレンスできる作品がなかなかない。唯一、諏訪敦彦監督の「H Story」(2000年)とゴダールの「彼女について知っている二、三の事柄」(1967年)、この2本からはインスピレーションを得ました。しかし作品の完成型というか、出口がない。私自身、最初からドラマとフィクションの垣根というものを感じていないし、映画も一つの物語に没入させるのではなく、物事を深く考える思考の回路であって欲しいと思っているところがあります。なので、未知なるところで自分の道を見つけていくしかないんですよね。「こんな終わりの見えないところによく挑戦したね」と言われますが、そういった、思考の回路として映像を使いたい、という思いがすごくあるからだと思います

大高:その思いがいわゆる「熱量」というものですね。

中村: 大西君は熱量と言いましたが、編集している時はおもしろいもので、途中から、私が作っているというよりも、作品が自立して動いていく感覚がありました。映画が自分で「なんとなくこっちに行きたい」と言っている感じがするんです。その声を聴いて、編集する過程には「にじり寄る」という言葉をずっと使っていたんです。私のビジョンを具現化するということではなく。映像が行きたい方向に行かせてあげる、誘導している感覚。今まで自分が制作してきたテレビ番組では感じたことがない感覚でした。なので、この映画制作を通じ、作る行為というものの一つの真理に触れた感じはしています。内藤さんの世界に入ったとも感化されたとも言えるし、導かれたというところがあると思っています。

大高:大西さんからみて、制作中に大変だったことは。

大西:むしろ大変じゃなかったタイミングはあまりないですね。中村さんが、時には折れそうになっている姿も見ましたし。それはやはり編集中の方がより強かったのでは。撮影は、撮るという行為をすることでのカタルシスというか生成している感覚もあるし、関わる人もたくさんいて、それで開けられることは常にあるから。対して編集はそぎ落としたり、もう一度意味づけて再生成する行為。それを端から見ていると、99%苦しそうで、でも1%超気持ち良さそうにしている、という感じでしたね。

中村:さっきお話したように、まるで作品が自律して動き出しているようでした。対して私は作品のしもべ。朝6時に起きて、朝食をとって、庭のお花に水をやって、さあいきましょう、みたいな感じで取り組んでいました。身を清めて、禊ぎを済まさないと作品の声が聞こえてこない感じがして、つとめてそうしていました。いちばん佳境だっと時は修行僧、修行編集みたいでした。
 そういう過程で、作品のなかの大きなテーマが言葉になってきました。「私が私たちになる」という言葉も、きっとずっと前からあったんです。5人の似た女性たちをキャスティングして、それは内藤さんの分身でも、私の分身でもあるような。撮影している時は「集合的無意識」みたいな言葉で表現していたんですが、撮り終えてみるとそうじゃなかった。「私」をちゃんと語ることによって、普遍性が立ち上がるのではないか。編集の中でそういうことが分かってきたり。

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温もりがある経済の仕組み

大高:資金の面でのご苦労もあったとのことですが、今回クラウドファンディングに取り組まれたきっかけは。

中村:これはMotionGallery で取り組まれていることそのものだと思うのですが、いま日本で映画をつくることの大きな壁は残念なことに資金的な面なんです。どうしても映画自体にも市場経済での評価というものがついてまわるし、そこに乗れない作品は企業からの資金提供も難しい時代です。本作の制作資金は、文化庁文化芸術振興補助金と東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京の助成金、資生堂、個人協賛金、そしてクラウドファンディングという内訳です。この中でも資金集めのスタートは、個人協賛金でした。ありがたいことに前作のファンになってくれたある企業の社長さんに企業協賛をお願いしに行ったのですが、企業としての支援は難しいけれども個人として応援したいと言っていただいて、その方が個人協賛者を集めてくださいました。半年ぐらい自分のカメラで内藤さんを撮り続けていた時期だったのですが、この方の尽力がなければ作品の制作はスタートしていないですね。東京都歴史文化財団の助成金も、前作をきっかけに知り合った方に教えて頂いて。そういう人の繋がりで資金を集めてきたところがあります。
 実は私、クラウドファンディングを始めるのには当初はすごく消極的でした。こんなにプライベートな、分かりづらい作品にお金をくださいって、なかなか言えないなと。しかし、クラウドファンディングに取り組むことでこれまでとは違う意味で広げる行為にもなるから、と言われてスタートしたんです。

大高:それでも、結果的には163名のコレクターから、193万1500円のファンディングに成功したわけですが、その結果についてはどう感じましたか。

中村:びっくりした、本当に感動した、というのが率直な感想です。たぶん、お金を出してくれるのは知り合いだけ、それから内藤礼さんが好きな方、お金を持っている美術好きな方ぐらいかなと思っていました。でも、ふたを開けたら、海外を含めて全く知らない多くの方々が支援してくださり、応援のメッセージを頂きました。新しい経済システムってこういうことなんだ、お金には温度があって、単なる記号じゃないんだという実感を得て、本当に感動しました。
 Motiongalleryのページのために、募集の文章を書いたのも、とてもいい機会でした。なぜこの作品を作りたいのか、なぜそれは今なのか。内藤礼さんの純粋なドキュメンタリーではない、わかりにくい作品になることは確かだったので、そのことも正直に説明する必要もありました。そして自分がどういうふうにものを考える人間かということを理解もらわないとお金は受け取れない、という気持ちがあったので、その部分も自分に正直に書きました。この文章を書いたことで、初期の編集の方針が自分のなかで固まってきたところがありました。制作にとっても良い影響を感じてありがたかったです。

今、立ち止っている人にも見てほしい

大高:最後に、どんな人に映画を観に来てほしいですか。

中村:例えば私の友達でも、仕事を続けられなくなって東京を離れ、シフトダウンして、という人が何人かいて。私自身もテレビの世界について行けるんだろうかと悩んだ時期もたくさんありました。病気の家族を抱えるなかで、私自身、病や健康ではない人の時間に寄り添うように生きていると、いまの東京の「速さ」のようなものは、本当に過酷だと感じます。そういうちょっと立ち止まってしまっている方にも、ぜひ観てもらいたいなと思っています。

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■作品情報

「あえかなる部屋 内藤礼と、光たち」

9月19日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中。
「見えないものの姿を、わたしたちはもう一度思い出せるだろうか」美術家・内藤礼と、その作品世界に誘われる女性たちの物語。存在の奇跡に触れようとして、いまここに憩う光たち。
監督:中村佑子 出演:内藤礼、谷口蘭、湯川ひな、大山景子、沼倉信子、田中恭子

筆者紹介

大高健志(おおたか・たけし)のコラム

大高健志(おおたか・たけし)。国内最大級のクラウドファンディングサイトMotionGalleryを運営。
外資系コンサルティングファーム入社後、東京藝術大学大学院に進学し映画を専攻。映画製作を学ぶ中で、クリエィティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、2011年にMotionGalleryを立ち上げた。

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