コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第15回
2018年9月3日更新
上田慎一郎監督「カメラを止めるな!」 新たなる娯楽映画の作法
6月23日に新宿K’s cinemaと池袋シネマ・ロサの2館で「カメラを止めるな!」が公開されました。ワークショップから生まれたこの小さなインディーズ映画は、瞬く間に話題となり、やがて「“37分ワンシーン・ワンカットで描くノンストップ・ゾンビサバイバル!”……を撮ったヤツらの話」は日本全国へと広がりました。映画は今年最大の話題作となり、上田慎一郎監督は一躍時の人として、あらゆるメディアから注目を集めています。MotionGalleryでは昨年の夏に本作の制作費および活動資金のクラウドファンディングを実施し、150万円を超える支援をいただきました。
「カメラを止めるな!」によるこの前代未聞の快進撃は、上田監督がこれまでに培ってきた映画に対する熱く、真摯な姿勢によるものです。ハリウッド映画を見て育ち、中学の頃から自主映画を制作し、数多くの短編映画を発表してきた上田監督は、まさに「一夜にして成功するには10年かかる」というウディ・アレンの言葉を体現する存在のごとく、満を持して日本の映画界に現れました。熱狂の渦の真っ只中にいる当事者は、果たして何を思い、この状況をどのように見据えているのでしょうか。上田監督と、本作のプロデューサーであり、監督&俳優養成スクール・ENBUゼミナールの代表でもある市橋浩治さんのお二人にお話を伺いました。
■映画の大ヒットは自信に繋がった
大高 : 基本的にこのコラムは、MotionGalleryでクラウドファンディングをした作品の劇場公開を応援しつつ、プロデューサーと監督との鼎談から、クラウドファンディングを含めた製作の裏側などを伺っています。でも「カメラを止めるな!」に関しては、公開前の限定イベント上映を観た時に「これは絶対に大ヒットするし、メディア取材も殺到するだろうから、まあいらないだろうな」と思ってオファーしなかったんです(笑)。
そしたら案の定すごい盛り上がり方になって、新宿K’s cinemaも連日満席になり、想定をはるかに超えていました。その裏側も知りたいし、メディアの記事も落ち着いて来た頃だし、「ロングランに向けて!」と思って、今回のコラムを企画しました。でもその時には、全国拡大上映になって全国のシネコンで上映されるようになるなんて事は知らなかったし、さらには上田監督がメディアやテレビにもどんどん出てくるようになってしまった…。という事で、今回はいつものパターンとは違っちゃうんですけど、この勢いがさらに続くように、応援してます。よろしくお願いします。
上田 : よろしくお願いします。
大高 : なんでヒットしたかとか、どういう経緯で映画を作ったとか、そういうのは色々なところで話をしてると思うので、ここでは全部省きますね(笑)。
それにしても今回の大ヒットは、ものすごい大躍進ですよね。僕もイベント上映で観た時に「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」的な流れになってすごそうだなと思ったんですけど、今はそれ以上の状態になっていると感じてます。今回の大ヒットを受けて、今後の映画作りの姿勢とか、映画に対する感覚やイメージは変わりますか?
上田 : あ、イベント上映後にFacebookで「劇場公開すればブレアウィッチとかそういう怪物級のインディペンデントドリームが実現するぞ!」ってコメント頂いてましたよね!そうですね、今回のことでとても自信になりましたね。本作に至るまでの短編映画では「映画祭に入らないといけない」とか「ちょっと徳の高い映画を作った方が良いんじゃないか」とか、色々と考えながら、背伸びをしながら作っていたところがありまして。だけど「カメラを止めるな!」は「本当に自分のやりたいことや好きなことを、偉い人に褒められなかろうが映画祭に入らなかろうが作ろう!!」と思って取り組んだんです。劇場用長編映画としては1本目になるから、後悔しないものを作ろうと。その結果大ヒットしました。だからやっぱり自分の好きなことややりたいことを、熱意を持って貫けばいいのだと自信になりましたね。
大高 : ああ、ものすごくいい話ですね。そうですよね!傍でみていると、ここまで大ヒットしてしまうと次回作へのスタンスとか大変だろうなと思いましたが、上田節がまた見れそうで楽しみです。
上田 : 今後のことで言えば、低予算と大きい予算のどっちかに限って映画を作るという感じではなくて、メジャーの映画もやれば、もうちょっとフットワークを軽くして中~低予算の映画も作りたいです。どちらかでしかできないものもあるので。
大高 : 公開規模がどんどん大きくなって、映画が広がっていく中で、なにか戸惑いやギャップを感じたりしますか?
市橋 : それはないですね。だけど、大きいスクリーンになった時に「あ!後ろにあいついるんだ!」みたいな発見や、すごい細かい部分が見えたり、涙が流れるシーンがよく見えたりします。大きいスクリーンで映画を観るということの意味があるんだなと思いました。あと、劇場の規模や環境によってお客さんの反応って変わってくるのかなと思っていたけど、「カメラを止めるな!」の場合は大きな劇場でも皆さん笑って盛り上がって、拍手もしていただいていました。作品として、劇場規模の垣根はないなと。ただ、ここまで映画が広がることは僕も全く想像もしてなかったです。そういう意味では驚いています。
上田 : たしかに驚きはありますね。でも戸惑いみたいなものはないです。そういえば、最近テレビとかに出してもらうようになったので、街で声を掛けられるようになりました。あと、10年以上連絡をとってない人から連絡が来たりすることもありました。テレビの影響力には、さすがにちょっと驚いています。
大高 : そこがある種の戸惑いなんですね(笑)。 やっぱりテレビってすごいんですね。映画監督がいくらヒット作を撮っても、街で声を掛けられるというのはなかなかないですよね。
上田 : 普通のメジャー映画とかでも、監督の顔が浮かばない人はいっぱいいますもんね。
市橋 : 映画の主演やキャストの人は分かるけど、監督の顔は普通全く分からないよね。でも、「カメラを止めるな!」は、監督が前面に出てるんで(笑)。
大高 : それはやっぱり、構成や作品のおもしろさがあるからこそなんでしょうね。それによって、役者よりも監督の方が気になってしまうんだと思います。そういえば脚本指導に榎本憲男さんの名前がありますけど、どんな関わり方をされてたんですか?榎本さんはSNS上で「カメラを止めるな!」についての発言をあまりしないから、かっこいいなと思って見ています。
上田 : 榎本さんには、初期のプロットの段階から見てもらっていましたね。特大ヒットする前はSNSでちょっと書いてくれていたけど、途中からは「これは俺が応援するまでもないね」と言ってくださいました。
大高 : やっぱり榎本さんからの指摘は的確でしたか?
上田 : そうですね。榎本さんはとても細かいんですよ。指摘とか直しを、本当に赤ペンでぎっしり入れて返してくれていましたね。参考になると思ったところは試してみて、ちょっと違うなと思ったところは反論もしますけど。 ストーリーや構成を考える時は、やっぱり1人で黙々とうんうん言いながらやるよりも、色んな意見を入れてかき混ぜてくれる人がいた方が、自分の頭も動きます。僕は榎本さんと妻(アニメ・映画監督のふくだみゆき)に、書いたものをすぐに見せていました。遠慮のない意見をくれる2人がいたのは、すごく助かっていました。