コラム:ご存知ですか?海外ドラマ用語辞典 - 第6回
2020年6月9日更新
ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの業界用語を通じて、ドラマ制作の内部事情を明かします。
番組人気のバロメーター「アップフロント」とは?今年は新型コロナの影響でプレゼンテーションが中止に
【今回の業界用語】
アップフロント(Upfront): 新たなテレビシーズンの前に販売される広告枠。また、広告枠販売の開始を記念したラインナップ発表会。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、アメリカの各ネットワーク局は、2020年のアップフロントを一斉に中止した。アップフロント(正確には、「アップフロント・プレゼンテーション」)とは、毎年5月にニューヨークで行われる広告主向けのラインナップ発表会のこと。各局とも人気番組の出演者を壇上に登場させたり、豪華ミュージシャンを招聘したりして、新シーズンへの期待を盛りあげて、広告主の財布の紐を緩めさせようとするのだ。
英語でアップフロント(upfrontまたはup front)とは、「前もって」という意味で、ホテルにチェックインする際に「支払いはアップフロントで」と言われたら、前払いしてくれという意味になる。テレビ界においての「アップフロント」は、テレビ番組の広告枠を「前もって」販売することだ。
アメリカのテレビシーズンは、新学期が始まる秋にスタートして、春に終了する。次のシーズンの広告枠の販売(=アップフロント)が開始となるのはシーズン終了直後で、そのキックオフを盛大に告知するため、主要ネットワーク局は毎年5月にプレゼンテーションを行うのだ。
アップフロント・プレゼンテーションは、もともとは会議室などで行われていたようだが、いまでは広告主だけでなく、ジャーナリストや一般のファンも招待した盛大なイベントとなっている。各局とも趣向を凝らしていて、その年によって傾向が変わるものの、番組の出演者が次々と登壇して、シズルリールと呼ばれるティーザー映像を披露する基本パターンは同じだ。
これはあくまでプレゼンテーションなので、具体的な交渉はその後行われることになる。新シーズンの開始前に売り切れる広告枠は、全体の5~7割ほどと言われている。ストリーミングへの移行や、タイムシフト視聴によるCM飛ばしが一般化するなかで、広告主が飛びつくのはリアルタイム視聴される人気番組だ。たとえば2017~18年のテレビシーズンにおいて、30秒のCM枠の平均販売額の最高は「ウォーキング・デッド」の41万5000ドルで、「THIS IS US 36歳、これから」の39万5000ドルが続いている。また、人気ドラマの最終話となると視聴者数が増えるので、それだけCMの放映費も値上がりする。最終シーズンの平均販売額が25万8500ドルだった「ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則」も、最終話は150万ドルに高騰。国民的人気番組だった「フレンズ」の最終話は、150万ドルから230万ドルだったという。
しかし、2020年は新型コロナウイルスの感染予防対策として、すべてのアップフロント・プレゼンテーションが中止となった。広告主にはおそらくデジタル版のプレゼンテーションが提供されることになるだろうが、新シーズンを祝う恒例イベントが消滅したことで、コロナ禍により先行き不透明な米テレビ界の現状が浮き彫りになったと言えるだろう。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi