コラム:LiLiCoのHappy eiga ダイニング - 第10回
2010年12月7日更新
第10回:松山ケンイチが抱く“でっかい”夢とは?
対談ゲスト:「ノルウェイの森」松山ケンイチ
TBS「王様のブランチ」の映画コメンテーターとして人気のLiLiCoが、旬の俳優・女優から映画に対する思い、プライベートな素顔に至るまでを多角的に展開する対談連載「LiLiCoのhappy eiga ダイニング」。第10回のゲストは、「ノルウェイの森」に主演の松山ケンイチ。村上春樹の世界的ベストセラー小説を、トラン・アン・ユン監督が4年の脚本執筆期間を経て映画化にこぎ着けた同作で、主人公ワタナベを演じた松山にLiLiCoが迫った。
LiLiCo(以下、リリコ):巨匠トラン・アン・ユン監督と一緒のお仕事を通して、いろいろと刺激を受けたと思うんですが、一番すごいと思ったところは?
松山ケンイチ(以下、松山):キャラクターに品性をもたせる演出をすることですね。そこは自分ではできない部分ですよ。トラン監督がいなかったら、品性をもたせることはできなかったと思います。最初はそれに気づかずやっていたんです。指示がすごく細かいんですよ。「ワタナベらしさがここにはあるけれど、この直後の視線にはないんだ」とか。そんなことを一緒に調整しながらやっていました。あと、画と人とのバランスがすごくいいなと思うんです。例えばすごい引き絵でも、景色自体が映っている2人の気持ちを表現しているのが分かる。ちゃんと心に響いてくるような画がすごくたくさんあるじゃないですか。全然違うなと思いました。
リリコ:画の世界観がすごく良かったから、この映画に浸っている気分がずっとしていたんですよ。私もすごく好きでしたよ。監督は現場に到着してから演出するって聞いたんですが?
松山:家で考えて来ないみたいなんです。カット割りっていうのもないから、その場のお芝居で決まるんです。午前中にカメラワークとかお芝居を見て決めて、大体お昼過ぎから回し始めるんですよ。そっちのほうが自然じゃないですか。どういう芝居をするのか、この空間で何を使って表現するのかっていうのは、監督が見て決めるほうが自然だと思うんですよ。家でカメラワークもカット割りも決めていたら、極端に言ってしまえば誰だっていいわけじゃないですか。ただそこにいればいいわけだから。そういう時間の使い方をさせてくれた製作の方々も素晴らしいなと思いましたね。
リリコ:素晴らしいけれど、それって当然、時間はかかりますよね?
松山:うん、そういうスタイルって日本じゃ許されないと思うんですよ。でも、ちゃんとやらせてくれた。僕にとってもすごく貴重な体験でしたね。これまでは普通に徹夜とかありましたから。この現場は徹夜ってなかったです。夜までっていうのはありましたけど、朝までっていうのはなかったですね。
リリコ:菊地凛子さんや水原希子さんとは蜜にコミュニケーションを取っていたりしたんですか?
松山:凛子さんは直子にどっぷりと浸かっていましたね。希子さんは初めてっていうこともありましたから、現場にいることに緊張しないでもらいたかったから、すごくコミュニケーション取っていました。
リリコ:水原さんは初演技ですものね。どうでした?
松山:初めての分だけ、トラン監督に細かく演出してもらっていましたけれど、かなり大変だったと思います。それに、初めてであのキャラクターを演じるのは、セリフの量にしても表現する精神的なものにしても難しいと思うんですよ。ただ、ちゃんとしっかり演出されたことで、素晴らしい緑になったと思いますね。
リリコ:初演技とは思えませんよね。凛子ちゃんがどっぷり浸かっているっていうのもよく分かりました。
松山:極端な言い方ですが、凛子さんは放っておいても大丈夫だろうと思っていました。ただ、すごく深くまで入り込んでいかなければならないキャラクターだったので、行き過ぎやしないかと心配になったりもしましたけどね。でも、切り替えが上手で精神力の強い人なので、僕は安心していましたよ。
1987年に刊行された原作は、日本の国内小説累計発行部数歴代1位となる1079万部(単行本・文庫本合計)を誇り、現在も記録を更新中だ。また、36言語に翻訳され、各国で熱狂的なファン“ハルキスト”を生み出し社会現象になったほど。松山扮する主人公のワタナベは、親友キズキ(高良健吾)の自殺から逃れるように東京の大学へ進学するが、キズキの恋人だった直子(菊地)と再会する。ワタナベが直子への思いを強めれば強めるほど、直子の喪失感は募るばかり。そんなとき、瑞々しさにあふれた緑(水原)と出会い、直子とは対極ともいえる存在に心ひかれるようになる。全編を通じ、決して癒されることのない、悲しみを抱えた若者たちの声にならない叫びが丹念に描かれている。
リリコ:それと、ラブシーンもすっごいキレイだったと私は思ったんです。松山くんの中で、印象的なシーンってありますか?
松山:やっぱり原作と全然違う表現の仕方をしているのは性描写ですよね。ベッドシーンです。あそこは、原作の受ける印象とは全然違いますよね。僕は原作を初めて読んだとき、エッチな本だと思ったんですよ。生々しくて、これをそのまま映像にして大丈夫かな? と思っていたんですが、バストアップでのベッドシーンにしたことで、肉体的な美しさよりもワタナベや直子の気持ちを分かりやすく表現するためのベッドシーンになっていた。僕はすごくいいシーンだなと思うんですよ。つまり、セックスというものが、あの場面でどういう意味合いを持っているのかを映画は分かりやすくしている。原作が苦手だったというかたの中には、映画で理解を深めたうえで、もう一度読もうとする人もいらっしゃるかもしれませんね。トラン監督は、あのシーンを「遠すぎず近すぎずのバランス」にしたかったと言っていました。本当にいいバランスだなと思いましたね。
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