コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第99回
2008年3月3日更新
第99回:WGAストライキが残した傷跡
米脚本家組合(WGA)によるストライキがようやく終結した。一時は開催が危ぶまれたアカデミー賞も低視聴率ながら無事に執り行われ、街も人も活気を取り戻しつつある。
それでも100日間にも及んだストの傷が癒えるまでは、まだまだ時間がかかりそうだ。
今回のストで一番のダメージを受けたのはTV業界だろう。新シーズンが始まって間もない昨年11月初旬に脚本家たちがボイコットを始めたため、「CSI」シリーズから「グレイズ・アナトミー」に至るすべてのTVドラマは、ストックしてあった台本を年末までに使い果たしてしまった。新しいエピソードがなくなった番組は、再放送やリアリティ番組に差し替えられたため、TVドラマ好きのぼくにとってはつらい時期となった。
2月中旬にようやくストが解除されたものの、これですべての問題が解決したことにはならない。07年~08年のTVシーズンは今年5月に終わってしまうので、いまから急いで製作を再開させても通常のエピソード数(22話から24話)をこなすのは不可能だ。シチュエーションコメディや一話完結型のドラマなら、放送回数が変わってもフレキシブルに対応できるだろうけれど、「24」や「HEROES/ヒーローズ」といった連続型ドラマにはシーズンを通してのストーリーラインがあるため、エピソード数が変わってしまうと調整が難しくなる。
ワンシーズンあたり24話と決まっている「24」は、ストライキの開始とともに、早々と放送延期を決定している。08年1月からスタート予定だったシーズン7の放送は、09年まで持ち越されることになった。
「HEROES/ヒーローズ」も、来シーズンまで製作延期となった。アメリカではシーズン2の第12話まで放送が終わっているが、クリエイターのティム・クリング氏によれば、あと3~4話を急いで製作するよりも、ストーリーの立て直しを優先したという。そういえば、シーズン2の評判は芳しくなかった。
連続型のドラマのなかで、ストの影響を最小限に抑えることができたのが、「LOST」だった。今シーズンからエピソード数が16話に減少したため、米ABCはミッドシーズンとなる08年1月31日から放送を開始。そのころにはストの影響でライバル番組がすべて再放送に切り替えられていたから、高視聴率をマークすることができた。しかも、もともと放送回数が少ないから、ストによる被害も少ない。ストライキの終結とともに、「LOST」のプロデューサーたちは製作再開を発表。8話分のエピソードを5話に圧縮して、なんとかシーズン4を無事に終わらせるという。ストーリーの展開がシーズン4から飛躍的に早まっているから、それをさらに短縮するのは難しいことだろうけれど、不可能ではあるまい。
「LOST」ファンのぼくとしては、1話でも減ってしまうのは残念なことだが、放送が継続されることを素直に喜びたい。なにより、いまは毎週の放送が楽しくて仕方がない。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi