コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第90回
2007年6月7日更新
昨年9月にスタートした06~07年のTVシーズンが、この5月についに終了した。人気ドラマはそれぞれシーズンフィナーレを迎え、次のシーズンが開始するまでしばらくお休みとなる。いくつものドラマを掛け持ちで追いかけていたぼくも、ようやくこれで一息つけるようになったわけである。
今シーズン、個人的にもっともがっかりしたのが「24」だった。シーズン6となる今回は、出だしこそ衝撃的だったものの、回を追うごとに緊張感が薄れてしまった印象だった。これは「24」の脚本家チームの責任というよりも、従来のストーリー形式がそろそろ限界にきている証拠ではないかと思う。「24」は、論理性よりも意外性のある展開で視聴者を引きつけてきたわけだけれど、6年も続けているうちに、視聴者もサプライズに慣れてしまったのだ。たとえば、ジャック・バウアーが単独行動を余儀なくされるとか、政府側の悪人がのちに味方になるとか、シーズン6には使い古されたパターンだらけで――他にもたくさんあるけれど、未見の人のために伏せておきます――シーズン1から見ているぼくはのめり込むことができず、結局、途中リタイアしてしまった。クリエイターが来シーズンから「24」を刷新すると宣言しているところを見る限り、やはり従来のパターンに限界を感じていたのかもしれない。
逆に、ぼくがもっとも感激したのは「LOST」だった。もともと「LOST」の大ファンであったことから、シーズン3にもなれば、熱が冷めることはあっても、これ以上夢中になることなんてあるはずがないと思っていただけに、これは驚きだった。具体的なコメントは差し控えるけれど、シーズン3を見終えてから、これまでのストーリーを振り返ると、よくもこれだけたくさんの伏線を張り巡らしていたものだと感激するはずだ。また、これまでは謎を出す一方だったクリエイターたちが、ようやく答えを小出しではあるが提示するようになったのも嬉しい変化だ。おそらく、10年の放送終了が決定し、残りのエピソード数が明らかになったため、時間稼ぎをする必要がなくなったためだと思う。とくにシーズンフィナーレは圧巻で、そこで明かされる事実はもちろんのこと、従来のフラッシュバックとは異なる新たな物語手法の採用に、ぼくは完全にぶっとばされた。最終話の放送からすでに数週間経ったいまでも、その興奮が冷めやらないほど。おかげで、シーズン4の開始まで、知的興奮をたっぷり味わうことができそうだ。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi