コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第62回
2005年2月1日更新
毎年この時期になると、雑誌やラジオなんかからアカデミー予想を頼まれることになるのだけれど、記憶をたどってみても今年ほど難しい年はこれまでなかったように思う。なにしろ、今年のノミネート作品で、本命と言えるような作品が見あたらないのだ。アカデミー会員が好むのは、おおざっぱに言えば、批評家が好む芸術性だけでなく、大衆性をしっかりと兼ね備えている作品だと思うのだが――「ビューティフル・マインド」「シカゴ」「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」と、過去3年間の作品賞作品にはそれがぴたりと当てはまる――作品賞にノミネートされた「アビエイター」や「ミリオンダラー・ベイビー」には一般観客を喜ばせる魅力にやや欠けているし、「Ray/レイ」や「ネバーランド」はその逆で、大衆性に傾いているように思う。「サイドウェイ」は、批評家も一般観客も楽しめる傑作だけれど、オスカーでは不利なコメディ映画であるうえに、アカデミー会員が好むもっとも大きな要素「エピック感」が皆無である。
こうなると、より細かく分析していくしかない。アカデミー賞を選ぶ会員は基本的にハリウッドの同業者だから、業界内における人気が得票率に反映される。また、年配の人が多いから、エッジの効いた作品よりも、安定感がある方が有利だ。さらに、投票する会員自身が、授賞式をドラマチックに演出しようとする傾向がある。たとえば、「ジェイミー・フォックスに主演男優賞をあげれば、授賞式が盛り上がるだろうなあ」とか、「いい加減スコセッシ監督に監督賞をあげなきゃまずいだろう」とか、「アネット・ベニングが、99年に続いて2度もヒラリー・スワンクに負けるのはかわいそうだ」とか、作品や演技そのものの魅力よりも、それ以外の要素が複雑に絡み合ってくるのだ。
大作であること、古き良き映画業界を描いていること、ミラマックスが大量に宣伝を投下していることなどを考慮に入れると、作品賞・監督賞は「アビエイター」が有利となるが、監督賞だけ「ミリオンダラー・ベイビー」のイーストウッドに行く可能性も否定できない。うーむ。
「サイドウェイ」 TM and (c) 2004 Fox and its related entities. All rights reserved.
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi