コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第6回
2000年5月29日更新
ジム・キャリーは相当落ち込んでいるらしい。「トゥルーマン・ショー」で演技派に転向するも、アカデミー賞からは完全に無視され、リベンジとばかりに全身全霊で打ち込んだ「マン・オン・ザ・ムーン」でもあっさりと黙殺された。かつてお尻の穴でトークする芸を披露していた男を、アカデミー会員は俳優と認めるわけにはいかないのだろう。ショックを受けたジム・キャリーはノミネート発表以来、一切インタビューを受けていない。アメリカでは、おばか演技に復帰した新作「Me, Myself and Irene (邦題:ふたりの男とひとりの女)」、日本では「マン・オン・ザ・ムーン」が公開されるという大事な時期なのに。
しかし、そんな孤独なジム・キャリーを歓迎してくれる映画賞が世界にはひとつだけ存在する。この映画賞では彼はなんと最多ノミネート記録保持者 (計14回) なのだ。その名はMTVムービー・アワード。MTVの視聴者による完全な人気投票で、92年にスタートした。MTVの視聴者といえば、10代から20代前半の若者で、映画の興行成績に最も影響を及ぼす層である。つまり、アメリカでの人気が最もストレートに反映される映画賞と言っていい。だからこそ、マイケル・ベイ監督 (「アルマゲドン」) やジェームズ・バン・ダー・ビーク (「バーシティー・ブルース」) など、他の由緒正しい映画賞では相手にもされないような人たちが受賞するという珍現象が起きる。カテゴリーも、作品賞、音楽賞などのほかに、Best Kiss、 Best Action Sequence (アクションシーン)、Best Villain (悪役) など遊び心たっぷり。今年のアカデミー賞ではウォーレン・ビーティに贈られた功労賞も、MTVの場合だとこれまで「13日の金曜日」のジェイソンや「スター・ウォーズ」のチューバッカに贈られているぐらいだ。
今年は6月8日に全米放送となるMTVムービー・アワードの最多ノミネートは「マトリックス」と「オースティン・パワーズ:デラックス」。Best Fight のノミネートには、オースティン・パワーズ VS ミニ・ミーやエドワード・ノートン VS エドワード・ノートン (「ファイト・クラブ」) なんてのもある。
こんなふざけた賞だから、きっとホームパーティーのような地味な映画祭だと思う人がいるかもしれない。でも、プレゼンターの豪華さでは決してアカデミー賞には劣らない。ホストのサラ・ジェシカ・パーカーを筆頭に、トム・クルーズ、キアヌ・リーブス、ニコラス・ケイジ、ジョージ・クルーニー、メル・ギブソンと、高給取りのトップスターが大挙して現れる (みんな出演作のプロモーション目当てで参加するだけなのだが)。
ムービー・アワードの一番の目玉は、なんといってもジム・キャリーの受賞スピーチ。毎回気の利いたコメントや奇抜なコスチュームで、会場を爆笑の渦にまきこんでいる。今年も思いっきり笑わせて、気を取り直してほしいものだ。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi