コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第57回

2004年9月2日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE
「オーシャンズ12」
「オーシャンズ12」
ジョージ・クルーニー ブラッド・ピット マット・デイモン
ジョージ・クルーニー ブラッド・ピット マット・デイモン

ついこの間、ロサンゼルスで「オーシャンズ12」の取材があった。

映画の出演者にインタビューする場合、全米公開日から2週間ほど前にニューヨークやロサンゼルスで行われる通常の「ジャンケット」と、撮影現場を訪問する「セットビジット」、そして、映画のポスト・プロダクション中に催される「ロング・リード・インタビュー」(先行取材)と、主に3つのタイミングがあって、それぞれメリット、デメリットがあったりするわけだけれど、日米で同時公開される作品が急増し、ジャンケット取材では月刊誌の掲載に間に合わなくなるという理由から、ロング・リードの機会が増えている。12月10日全米公開予定の「オーシャンズ12」も、当然ロング・リード取材だった。

取材場所は、ハリウッドにある小さな撮影スタジオ。「オーシャンズ12」のキャストがパブ用の写真撮影をしている合間に、インタビュー時間が設けられた。いま宣伝用の写真を撮っているぐらいだから、当然映画は未完成だ。映画を未見のまま取材しなくてはいけないところが、ロング・リード取材の辛いところだ。

画像3

おまけに、今回はぼくの苦手とする「リビングルーム形式」だった。誰かの家のリビングにいるかのようなカジュアルな雰囲気のなか、勢揃いした出演者たちと、気ままにお喋りするという最近はやりのスタイルで、出演者同士が勝手に話してしまうので、まともなQ&Aにならないことが多い。「オーシャンズ12」も、残念ながらそうなってしまった。

葉巻の煙が漂う取材部屋には、ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、マット・デイモン、キャサリン・ゼタ=ジョーンズら、「オーシャンズ12」の主要キャストが、コーヒーテーブルを囲んで談笑していた。ぼくは気後れせずに、クルーニーに質問を集中させた。同じ形式で行われた「オーシャンズ11」取材のとき、クルーニーが持ち前のリーダーシップで仕切ってくれたからなのだが、この作戦が裏目に出た。今回のクルーニー兄貴は異常なほどごきげんで、こちらの質問にはジョークでしか返答せず、共演者のまじめな返答に茶々を入れて、まともな取材の雰囲気を率先してぶちこわした。ドン・チードルやブラピがジョークで応戦し、まるで授業を無視して雑談に興じる悪ガキたちのようだった。

ぼくは為す術もなく、暴走していく彼らの無駄話を見守るしかなかったのだが、その一方である発見をした。これまでに、ほとんどのキャストに個別に取材をしたことがあるけれど、こんなに楽しそうな姿を見たのは初めてだったのだ。「トロイ」のときのブラッド・ピットも、「ボーン・スプレマシー」のときのマット・デイモンも、「ソラリス」のときのクルーニーだって、こんなに陽気じゃなかった。

それは、おそらく「オーシャンズ」シリーズという特殊な企画のためだ。普段の彼らは、主演俳優として、高額のギャラと引き替えに、ボックスオフィス的な責任を負わされている。でも、このシリーズの場合、アンサンブル映画だから責任は分散されるし、労働量も少なくて済む。プレッシャーから解放されて、気の合う仲間と仕事が出来るとあれば、楽しくならないわけがない。その雰囲気は、「オーシャンズ12」にも反映されているはずだ。

ただ、取材のときは、もうすこし自制してほしいけど。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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