コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第54回
2004年6月3日更新
肥満が深刻な社会問題となっているアメリカで、あるドキュメンタリー映画が話題を集めている。1日3食マクドナルドだけで過ごしたらどうなるかを記録した「スーパーサイズ・ミー」という映画がそれで、超低予算映画ながら全米ボックスオフィスのベストテンに食い込む健闘をみせているのだ。
「スーパーサイズ」とは、アメリカのマクドナルドではお馴染みの「特大」サイズのことで、ポテトなら610キロカロリー、コーラなら410キロカロリー(1.25リットル)もある化け物のような代物のことだ。以前、肥満になったのはマクドナルドのせいだとして、二人の黒人少女が訴訟を起こしたことが話題になったけれど、結局、この訴えは却下された。たぶん世の中の多くの人は、「そりゃそうだ」と思っただろう。けれど――ぼくもその1人だ――、モーガン・スプーロックというNY在住のフィルムメーカーは違った。原告の訴えを却下した根拠として、少女2人の食生活におけるマクドナルドへの依存度が証明できなかった点が挙げられていたことに注目した彼は、100%マクドナルドだけで生活したら、体にどのような影響が出るのか自ら実験することにしたのである。
彼のルールはシンプル極まりない。
1.マクドナルドで売っているもの以外は食べない。
2.店員に「スーパーサイズ」を薦められたら、断ってはいけない。
3.メニューすべてのアイテムを、必ず食べなければならない。
4.1カ月間続けなくてはいけない。
この設定だけを聞くと、くだらないバラエティ番組のチャレンジ企画のように思えるかもしれないけれど、モーガンの30日間ドキュメントと平行して、教育現場の取材や、栄養学士、弁護士、企業のスポークスマンのインタビューなどが盛り込まれ、「スーパーサイズ・ミー」は意外なほどディープなところに踏み込んでいく。やがて、浮かび上がるのは、利潤を追求する企業とその犠牲になる無知な人々という、アメリカではよく見慣れた構図である。
ちなみに、健康体そのものだった監督兼実験台のモーガンは、一月後には体重が13キロ増え、コレステロール値が65ポイント上がり、肝臓がショック状態に陥り、性的不能、肉体疲労、呼吸困難など、ありとあらゆるトラブルに悩まされることになる。なによりショッキングなのはドクターストップをかけられながらも、取り憑かれたようにハンバーガーを食べ続けるモーガンの姿だ。「食べているときだけ、幸せな気分になれる」と言う彼は、完全にジャンクフード依存症になってしまうのだ。
ジャンクフードが好きな人やダイエットをしたい人は必見の映画だと思う。ただし、ポップコーンやコーラなどの映画の友はくれぐれも買わないように。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi