コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第5回
2000年4月29日更新
夏が来たーー。こんな風に書き出すと、「陽気なロサンゼルスなんかにいるから、ついに頭がおかしくなったんじゃないか? まだ春になったばかりじゃねえか!」などとお叱りを受けるかもしれないけれど、僕が言っているのは映画界の話。先週末に公開された潜水艦アクション「U-571」(マシュー・マコノヒー主演) の公開で、ハリウッドは正式にサマー・シーズンに突入したのである。
サマー・シーズンはスタジオにとっては一番の稼ぎ時である。アメリカの学校の夏休みは3ヶ月と羨ましいぐらい長く、ヒマを持て余した子供たちは映画館に行くから、子供向けや家族向け映画が劇場を独占することになる。正式にはメモリアル・デイ (戦没将兵追悼記念日=5月の最終月曜日) から、シーズンが開始することになっていたのだが、最近は他の大作とのバッティングを避けて、フライング公開する場合も多い。たとえば、去年大ヒットを飛ばした「マトリックス」は3月31日のリリースだった。今年は「U-571」に続いて、5月9日にラッセル・クロウ主演「グラディエーター」(リドリー・スコット監督) が公開。どちらもこの夏一番の注目作「M:I-2」のリリース前に出来るだけ稼いでおこうということのようだ。
夏の本命「M:I-2」は堂々とメモリアル・デイに公開される。前評判は去年の「エピソード1」には及ばないものの──あれはどう考えても異常だった──それでもかなりのものだ。よほどの失敗作でなければ、夏のレースをぶっちぎるのではと言われている。
独立記念日 (7月4日) はサマー・シーズンのいわば中間地点。「インデペンデンス・デイ」「メン・イン・ブラック」などのヒットで「独立記念日男」の称号を得たウィル・スミスの作品も今年はない (「ワイルド・ワイルド~」の失敗で懲りたのかも)。その空席を巡って、メル・ギブソン主演の「The Patriot」(ローランド・エメリッヒ監督) と「スリー・キングス」コンビ (ジョージ・クルーニーとマーク・ウォルバーグ) 共演の「パーフェクト・ストーム」(ウォルフガング・ペーターゼン監督) が一騎打ち。さて、軍配はどちらに上がるのでしょう?
他にも「ザ・ロック」「コン・エアー」につづき、ニコラス・ケイジがメガ・プロデューサー、ジェリー・ブラッカイマーと組んだ「60セカンズ」、人気アメコミの映画化「X-Men」(ブライアン・シンガー監督) と大作がひしめき合っている。ただ、毎年巨額の制作費をかけた大作が共倒れになる一方で、「メリーに首ったけ」や「オースティン・パワーズ:デラックス」のような安手のコメディが健闘していることを考えると、ジム・キャリーが久々におバカ演技を披露している「Me, Myself and Irene」(ファレリー兄弟が監督) あたりが大穴ヒットになるのかも。
いずれにしても夏休みは子供向き映画だらけで、良心的な映画が好きなむきにはつらい季節。僕もそんな一人のつもりなんだけれど、実は「M:I-2」が観たくてたまりませんです。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi