コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第49回
2004年1月9日更新
それにしても、昨年の年末はきつかった。編集に3カ月も費やしたドキュメンタリーの仕上げで忙しいところに、キャパシティをはるかに超えた量の原稿依頼がきて(ぼくのキャパはもともとたいしたことがない)、しかもどの締め切りも年内なのである。どうにか全てをこなすことができたのだけれど――どんなことを書いたのかまるで覚えていない――予期した通り、体調を崩してしまった。そんなわけで、年末年始はずっと寝込んでいた。
アメリカの正月というのは、日本と違ってぜんぜん重みがない。1日だけが休日で、2日からはどのお店も平常通りの営業となる。テレビも普段と取り立てて変わらないので、もっぱらDVD鑑賞にふけっていた。
ぼくが最近はまっているのは、テレビドラマのDVD だ。不規則な生活をしているぼくにとっては、ワンシーズン続けて観られるのが嬉しい。コマーシャルで中断されることもないし、22話も入って、おまけもたっぷりついて50ドル程度で買えるというのもいい。クオリティのほうも、さすがに「ザ・ホワイトハウス」(最近、やっと第1シーズンがDVD化された)ほどレベルが高いものは少ないけれど、下手な映画より優れたものが少なくない。
たとえば、年末年始は「エイリアス」の第2シーズンを一気に観た。これは、「デアデビル」や「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」のジェニファー・ガーナーがブレイクするきっかけとなったテレビシリーズで、現在アメリカでは第3シーズンに突入中である(日本でもNHKのBSで「エイリアス/2重スパイの女」として放送されている)。女子大生のシドニー(ジェニファー・ガーナー)が、スパイとなって活躍する物語で、迫真のアクションや毎回変わるコスプレが話題だけれど、ぼくがなによりも惹かれるのは、そのツイストだらけのストーリー展開だ。
たとえば、第1話のあらすじは、こんな感じだ。
大学生のシドニーは、CIAの秘密支部SD-6にスカウトされる。天性の身体能力の高さに加えて、変装の才能を開花させたシドニーは、SD-6でトップのスパイへと成長する。しかし、婚約者にスパイ活動をしていることを打ち明けたときから、悲劇が始まる。婚約者は何者かに惨殺され、自らも命を狙われることになる。このときシドニーは、SD-6がCIAとは無関係のテロリスト集団であることを悟る。彼女は知らず知らずのうちに、テロ活動に荷担させられていたのだ。SD-6撲滅を誓うシドニーだが、その組織は巨大すぎて、本物のCIAにも実態がつかめない。かくして、彼女はCIAの2重スパイとして、SD-6で働きつづけることを決意する――。
このあらすじを読んで、ややこしいと思った人には「エイリアス」はお勧めできない。だって、毎回がこんな感じだから。ストーリー展開がやたらと早く、おまけにどんでん返しがたっぷりあって、しかもつじつまが(一応)合っている。謎が解決し、ついに物語が行き詰まったかと思わせて、強引ともいえる新展開に持っていくのもお得意のパターンだ。限られた駒で、よくもここまでサプライズを作ることができるものだと感心してしまう。まるで、どんでん返しがある映画を毎回観ているようで、つい病みつきになってしまう。タランティーノが出演を熱望したのも納得である(ちなみに、彼はテログループの変態的なボスとしてゲスト出演している。他にもクリスチャン・スレーターやイーサン・ホーク、レナ・オリンなどが登場している)。
1日4話ずつ観て、22話目を観るころには年が明けていた。こんな正月でいいんだろうか?
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi