コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第337回
2023年7月31日更新
ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。
“ビッグスター”はダブルストライキにどう反応すべきなのか? 模範はドウェイン・ジョンソン
ロサンゼルスに暮らしていると、米脚本家組合(WGA)と米俳優組合(SAG-AFTRA)の「ダブル・ストライキ」を肌で感じることができる。ちょっとでも街を車で移動すれば、スタジオ前には看板を持ってピケッティングをしている人たちがいる。5月にWGAがストに突入してから見慣れた光景だけど、7月中旬に16万人いる俳優たちが加わったことで、ぐっと人数が増えた(WGAの会員数は1万1500人程度だ)。ただ、昨今の猛暑で両団体とも健康への配慮から参加人数や時間を調整しているようだ。日本ほどの酷暑ではないものの、彼らは厳しい戦いを続けている。
ピケッティングの列には当然顔の知れた俳優の姿もある。
これまでに目撃されたセレブを列挙すると、ジョン・キューザック、ボブ・オデンカーク、デビッド・ドゥカブニー、エミール・ハーシュ、ジェーン・フォンダ、コリン・ファレル、ジェシカ・チャステイン、サラ・ポールソン、ローラ・リニー、ジャック・ブラック、ジェニファー・ガーナー、シンシア・ニクソン、ダニエル・ラドクリフ、アリソン・ジャネイ、バネッサ・ハジェンズ、スーザン・サランドン、ルピタ・ニョンゴ、オリビア・ワイルド、マーク・ラファロ、ロザリオ・ドーソン、オークワフィナ、ケビン・ベーコン、ジョーイ・キング、ジェイソン・サダイキスといった感じだ。
では、誰もが知っている“世界的なトップスター”の姿は? レオナルド・ディカプリオやトム・クルーズ、ウィル・スミス、ブラッド・ピット、ドウェイン・ジョンソン、ロバート・ダウニー・Jr.、ジョージ・クルーニー、ライアン・レイノルズ、マーゴット・ロビー、リース・ウィザースプーンといった人気者はいまだに目撃されていない。
彼らもSAG-AFTRA会員だから、他の会員たちと気持ちのうえでは一致しているはずだ。だが、表立って行動を起こしていないのには、2つばかり理由が考えられる。
まずは、彼らがプロデューサーとしても活躍している点だ。トム・クルーズが「ミッション:インポッシブル」のプロデューサーであることはよく知られているが、他の俳優たちもそれぞれ制作会社を抱え、自身の出演作を中心にプロデュースしている。プロデューサーとしての仕事内容はまちまちだが、たいていは企画やキャスト、予算をまとめたパッケージを作成することが含まれる。彼らの一番大きな仕事は、そのパッケージをより大きな制作会社やスタジオ、テレビ局に「販売」することだ。彼らの制作会社は規模が小さいので、WGAとSAGの交渉相手である業界団体AMPTPにはおそらく所属していない。だが、スタジオと非常に近い立場であるため、「労働者VS雇用主」という対立構造には馴染まない。
もうひとつの理由は、彼らが大金持ちである点だ。WGAにしても、SAG-AFTRAにしても、今回ストライキという強硬手段に出た最大の要因は、動画配信のビジネスモデルで会員の生活維持が難しくなったためだ。SAG-AFTRAでは保険加入要件を年収2万6000ドルとしている。しかし、16万人いる会員のうち、87%が要件を満たせていないという。「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」でアカデミー賞を受賞したキー・ホイ・クァンも、前年まで保険に加入できていなかったことを告白している。
ハリウッド俳優というと高給取りのイメージがあるが、それはごく一部だ。大半は俳優業では生活できず、副業で食いつないでいる。そんななか、SAG-AFTRAはインフレにあわせて最低賃金の11%アップを求めているが、AMPTPの提示額はわずか5%アップ。現行賃金を定めた3年前からのインフレを加味すると、実質値下げとなっている。
また、SAG-AFTRAが全組合員に健康保険を提供できるように、同団体の救済基金への支援金アップを求めているが、金額は40年間据え置きであるという。
SAG-AFTRAは無名の役者たちの生活を支えるために、ストライキを実施している。だが、ここで1本あたり2000万ドルもの出演料を受け取るトップスターが先頭に立つと、強欲な俳優集団という印象を与えてしまう。そうなると、いまは同情的な世間を敵にまわしてしまうことになる。彼らが自発的に動いたのか、上層部からの助言があったのかは分からないが、表立って動かないほうがいいのだ。
では、トップ俳優はどうすべきなのか? その模範となるのがドウェイン・ジョンソンだ。ジョンソンといえば、コンスタントに大作映画で主演とプロデューサーを務めている――つまり、高額ギャラを受け取っている――ビッグスターだ。SAG-AFTRA上層部の発表によると、ジョンソンは同団体の救済基金に高額寄付をしたという。救済基金から、ストライキ中に生活支援を必要とする会員の助成金が支払われることになる。
SAG-AFTRA上層部は、同団体の高収入俳優2700人に寄付を求める手紙を送付している。他のトップ俳優がジョンソンに続くことになれば、長期化で俳優組合が自滅するリスクを回避できる。今後の展開に注目したい。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi