コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第320回

2022年5月9日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。


「ウィー・アー・バック!」シネマコンで確信した映画館の復活

正直に言うと、コロナ後には大半の映画館が消滅する未来が訪れてもおかしくないと思っていた。生粋の映画ファンとしては不謹慎極まりない発想だけど、全米の劇場は長期にわたって閉鎖を余儀なくされる一方、動画配信はますます活況を呈していたし、映画スタジオも新作映画を劇場をすっ飛ばして配信デビューさせていた。

リモートになって仕事の効率があがったと感じる人が多いように、家庭での映画鑑賞が当たり前になってもおかしくない。暗いホールで赤の他人と一緒に巨大スクリーンを見つめる文化が過去のものになる可能性は高いように思えた。

だが、いまは違う。映画館での共同体験は残り続けると信じている。その確信に至ったのは、今年のシネマコン取材がきっかけだ。

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シネマコンとは、全米劇場所有者協会と呼ばれる団体が主催するコンベンションで、各映画配給会社によるラインナップ発表会が目玉となっている。毎年春にラスベガスで行われる恒例イベントも、他の大規模集会と同様、2020年は新型コロナで中止。2021年は8月に延期して実施したものの、デルタ株の蔓延の煽りをうけて規模を縮小していた。

だが、今年は4月25日から4日間にわたって従来のフォーマットで実施された。

映画館が復活するためには、客を呼び込むためのコンテンツが不可欠だ。だが、先行きが不透明な市場を嫌って、スタジオは大半の注目作の公開延期を決定。公開に踏み切った作品に関しても、劇場公開と同時に配信を行うなどの保険をかけた。これらの試みは一定の成果を挙げたものの、「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」がすべてを吹き飛ばした。劇場のみで先行公開された同作は、世界総興収19億ドルという歴代6位の大記録を達成。コロナ禍にあっても、人々が映画館での鑑賞を渇望していることが証明されたのだ。

さらに、大作を動画配信でデビューさせることの弊害も明らかになっている。映画は配信を開始した瞬間から高品質の海賊版を作成されるリスクにさらされる。注目作であればあるほど需要が高いから、被害額は甚大なものとなってしまう。いったんオンラインで配信してしまえば、すべての海賊版を取り締まるのは不可能のため、シアトリカル・ウィンドウ(劇場のみで独占公開する期間)を設けたほうが、被害を低く抑えることができる。つまり、従来のビジネスモデルは理に適っているのだ。

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奇しくも、数週間前、動画配信最大手のNetflixが会員減を発表したことをきっかけに、同社の株価が急落した。Netflixのほかにも、Amazon、Disney+、Apple TV+ 、HBO Maxと群雄割拠の状態だから、動画配信サービスは今後も成長を続けていくだろう。だが、無敵のNetflixが躓いたことで、ストリーミング神話は瓦解した。

そんななかで、今年のシネマコンには、ソニーやワーナー、ユニバーサル、ディズニー、パラマウント、ライオンズゲートといったスタジオが勢揃いした。各スタジオの重役が映画館での視聴体験の重要性を訴え、トム・クルーズドウェイン・ジョンソンジェームズ・キャメロン監督、キアヌ・リーブスらが新作をアピールした。

檀上に立った人たちが共通して口にしたキーワードが、「ウィー・アー・バック!」という言葉だった。映画興行界は2年ものあいだ苦境に立たされてきた。だが、ようやく「我々は復活した」のだ。

アバター ウェイ・オブ・ウォーター」の予告編をはじめ、デイミアン・チャゼル監督の新作「バビロン」やデビッド・O・ラッセル監督「アムステルダム」、バズ・ラーマン監督の「エルヴィス」など、公開された映像はどれも素晴らしいものだった。だが、ぼくの心にもっとも響いたのは、フッテージでもスピーチでもなく、特別上映された「トップガン マーヴェリック」だった。カンヌ国際映画祭でワールドプレミアされる「トップガン マーヴェリック」の本編が、世界最速でシネマコンで公開されたのだ。

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内容に関するコメントは控えるが、冒頭からエンドクレジットまで、ぼくは胸の高まりを抑えることができなかった。「トップガン マーヴェリック」が、ハリウッド映画に求められる要素をすべて満たした完璧なポップコーン映画であるのは間違いない。だが、感動が増幅したのは、数千人の観客と貴重な体験を共有できたためだ。ドルビービジョンの大画面を見つめ、ドルビーアトモスの大音量に包まれながら、一緒に笑い、歓声をあげ、拍手喝采する。映画館で映画を一緒に観ることがどれほど素敵な体験か、「トップガン マーヴェリック」は思い出させてくれた。

トップガン マーヴェリック」は、もともと2020年5月に公開を予定していた。それから何度か公開延期を経て、ようやく今月末に世界公開されることになる。そう、機は熟したのだ。ぜひ映画館で見て欲しい。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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