コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第260回

2015年4月8日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

第260回:「ブレイキング・バッド」と似て非なるスピンオフドラマ「ベター・コール・ソウル」

「ブレイキング・バッド」の大ファンとしては、2月に全米放送が始まった「ベター・コール・ソウル(原題)」には大いに期待していた。これは「ブレイキング・バッド」に登場した犯罪弁護士ソウル・グッドマン(ボブ・オデンカーク)を主人公にしたスピンオフで、彼がウォルター・ホワイトと出会う前の時代を舞台にしたプリクエルでもある。ということは、「ブレイキング・バッド」で死亡してしまった人気キャラクターが登場する可能性があるわけで、同窓会ドラマとして楽しみにしていたのだ。

しかし、期待はすぐに裏切られる。お馴染みのキャラクターは主人公と、のちにパートナーとなるマイク(ジョナサン・バンクス)のみ。しかも、主人公のソウル・グッドマンは、「ブレイキング・バッド」のときのような有能な弁護士ではなく、公選弁護人として薄給で働く駆け出しだ。しかも、名前もジミー・マクギルと違っている。ソウル・グッドマンとは偽名だったのだ。

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さて、「ベター・コール・ソウル」は、冴えない弁護士のジミー・マクギルが、クライアント獲得に奮闘する一風変わったリーガルドラマだ。第1話を見た僕は、正直なところ拍子抜けしてしまった。ウォルトやジェシーといったお馴染みのキャラクターが登場しないだけじゃない。「ブレイキング・バッド」の主人公は末期癌患者で、しかもドラッグ精製という違法行為に手を染めているから、常に死の恐怖がつきまとい、おかげでドラマはサスペンスに溢れていた。一方、「ベター・コール・ソウル」の主人公は資金難に苦しみ、自尊心を傷つけられてばかりだけれど、生来の楽観的な性格もあいまって、ドラマに切迫した雰囲気があまりない。「ブレイキング・バッド」と共通点はあっても、本質は異なるのだ。

だが、新しいエピソードを見続けていくうちに、番組クリエイターたちが「ブレイキング・バッド」と異なる方向を目指したのは正解だと思うようになった。「ブレイキング・バッド」に匹敵する傑作なんて簡単に作れるものじゃないから、似た路線を狙ったところで、亜流になってしまうのがオチだ。ならば、「ブレイキング・バッド」のことはいったん忘れて、新たな単独ドラマとして成立させたほうがいい。実際、クリエイターのビンス・ギリガンピーター・グールドは、たっぷり時間をかけて、ジミー・マクギル(ソウル・グッドマン)という男を共感できるキャラクターに作り替えた。弁護士としてのスキルとモチベーションを持ちあわせているのに、周囲にどうしても認めてもらえない可哀想な存在なのだ。そんな彼が、クライアントのためには違法行為すら厭わない凄腕弁護士「ソウル・グッドマン」に成長していくさまがじっくり描かれていく。

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もちろん、クリエイターやキャラクター、物語の舞台が共通しているから、「ブレイキング・バッド」らしさも健在だ。独自のユーモアセンスやノンリニア構成だけじゃなく、ファンにだけ分かるネタもたっぷり盛り込まれている。それでも、「ベター・コール・ソウル」は単独で楽しめるようになっているのだ。まったく欠点がないというわけじゃないけれど、回を重ねるごとにストーリーが大胆になり、独自のスタイルを確立しつつある。

アメリカではシーズン1の放送が終わってしまったが、いまからシーズン2が楽しみだ。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

Twitter:@miraikonishi

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