コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第258回
2014年9月2日更新
第258回:エミー賞ミニシリーズ部門で作品賞を受賞した話題のドラマ「ファーゴ」
「ブレイキング・バッド」がエミー賞で作品賞を含む5部門で圧勝した。カルト的存在だったシーズン1のころからずっと応援してきたので、名実ともにアメリカ史に残る傑作ドラマとして認められたのは嬉しい。6年間に渡って綴られた壮大なサーガにとって、これ以上ないフィナーレだろう。
でも、あいにく僕の気持ちは「ブレイキング・バッド」から離れてしまっている。エミー賞での圧勝は当然の成り行きだし、そもそも「ブレイキング・バッド」の全米放送は1年前に終了してしまっているのだ。
むしろいま夢中になっているのは、エミー賞のミニシリーズ部門で作品賞を受賞した「ファーゴ」のほうだ。
「ファーゴ」とは、もちろん1996年のコーエン兄弟の傑作映画が原作だ。田舎町を舞台に狂言誘拐が引き起こす悲劇と、それに関わる奇妙な人々を描くクライムドラマで、アカデミー賞では作品賞を含む7部門でノミネート。主演女優賞とオリジナル脚本賞を受賞している。
今回のテレビドラマはこの映画を下敷きにしているのだが、世界感やトーンを踏襲しつつ、ストーリーは完全なオリジナル。映画版を安易にコピーしただけじゃないのだ。
主人公はマーティン・フリーマン演じるレスターだ。ミネソタ州ベミジという田舎町で保険のセールスマンとして働いている。気が弱い彼は、甲斐性なしと妻になじられる惨めな日々を過ごしている。ある日、レスターはトラック会社を運営する高校時代のいじめっ子サム・ヘスと遭遇。怪我を負い、病院に行く羽目になってしまう。病院の待合室で、レスターは自らの窮状をマルボ(ビリー・ボブ・ソーントン)という見知らぬ男に告白。マルボはたまたまベミジを通りかかった殺し屋で、彼がレスターの人生に関与したことがきっかけで、殺人や脅迫、マフィアを巻き込んだ壮大な事件へと発展していくことになるのだ。
実は驚くほどに「ブレイキング・バッド」と共通点がある。善良な主人公が、一度誤った選択をしたことをきっかけに、どんどん狡猾になっていくというストーリーをはじめ、凄惨なバイオレンスとオフビートな笑いとのさじ加減の絶妙さも同じ。また、「ブレイキング・バッド」の凄腕弁護士を演じたボブ・オデンカークが、保安官として「ファーゴ」に登場している。
違いは、「ブレイキング・バッド」が無名の実力派俳優でキャストを固めているのに対し、こちらは有名俳優だらけということだ。ソーントンとフリーマンの2大スターに加え、コリン・ハンクス、キース・キャラダイン、オリバー・プラット、アダム・ゴールドバーグ、ケイト・ウォルシュといった有名俳優が脇を固めている。
もうひとつの違いが、アンソロジーシリーズという点だ。「アメリカン・ホラー・ストーリー」と同様、各シーズンでまったく違った物語が描かれる。レスターとマルボをめぐるストーリーは、シーズン1の全10話で完結。シーズン2は、異なるキャラクターを主人公にしたクライムドラマが描かれることになるという。たった10話で物語が完結するので、忙しい人にもお勧め。10時間の映画として楽しめる。とくに「ブレイキング・バッド」のファンには強くお勧めします。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi