コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第24回
2001年12月4日更新
「オーシャンズ11」(12月7日全米公開)は今年1番の期待作だった。スティーブン・ソダーバーグ監督はぼくが心から尊敬する監督だし、あの豪華キャストがいったいどんなかけあいを見せてくれるのか、想像しただけで胸がときめいた。
8月下旬、まだ映画が完成していないというのに、キャスト4名(ジョージ・クルーニー、マット・デイモン、ドン・チードル、アンディ・ガルシア)とソダーバーグ監督が1日だけインタビューを受けるという情報を聞きつけ、映画会社の人に無理を言って潜り込ませてもらった。会場はビバリーヒルズにあるペニンシュラ・ホテルで、ペントハウスでくつろいでいる5名にインタビューをするという座談会形式だった。案の定、みんなは好き勝手におしゃべりをして(特におしゃべりだったのはクルーニーだ)、インタビュアーとしては苦労したのだけれど、彼らの自信に満ち溢れた顔を見て、これは傑作に違いないと確信を抱いたのである。
待ちわびた「オーシャンズ11」をついに鑑賞できたのは、10月下旬のことだ。試写当日なんて、仕事がまるで手につかなかったほどだ。
映画はいきなり大胆な構図で幕を開けるデビッド・ホームズの音楽がフェードインし、オープニング・クレジット開始。のっけからソダーバーグ節が炸裂し、ぼくは大興奮だった。これ以上気分が高揚したらどうにかなってしまうんじゃないかと、心配になったぐらいだ。
が、しかし。その晩、それ以上気分が盛り上がることはなかった。たたみかけるストーリー展開と反比例して、ぼくの気持ちはどんどん沈んでいってしまったのだ。まだ観ていない人もいるから詳しいことは書かないけれど、納得のいかないところや、ソダーバーグ先生らしくないところが目について、いくら無視しようとしても、気になってしまったのだ。
試写室が明るくなっても、ぼくは席を立てなかった。先生が監督したんじゃないと信じたかった。いや、たとえ、先生が監督したとしても、なにか特別な事情(たとえば、どこかから圧力がかけられたとか)があったと思いたかった。でも、自分はごまかせなかった。まるで恋人に裏切られたような気分だった。
それから数週間後、再び「オーシャンズ11」を観る機会があった。驚いたことに、2回目の印象のほうがよっぽど良かった。1回目のときに気づかなかったディテールやニュアンスにいちいち感心して、「さすが師匠!」と膝を叩くこともしばしばだった。どうやらぼくは期待を持ちすぎてしまったいたようだ。
師匠、これからもついていきますからね!
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi