コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第151回
2011年9月15日更新
第151回:ハワイの魅力を凝縮した人気刑事ドラマ「HAWAII FIVE-0」
先日、ロサンゼルスからハワイに向かう飛行機のなかで、キャビンアテンダントさんと雑談を交わす機会があった。オアフ島で「HAWAII FIVE-0」の取材があること話すと、彼はたちまち興奮して、他のクルーを呼び集めた。その便のクルーは全員ホノルル在住で、「HAWAII FIVE-0」をとても誇りに思っているという。実際最初に話し掛けてきた人は、シーズン2のあるエピソードでエキストラを演じているというし、彼の従弟はグレイス・パークのスタンドイン(撮影前、照明や構図の確認のために俳優の代理をつとめる人)を担当しているという。そんなこともあって、ヒルトン・ハワイアン・ビレッジでキャストや製作陣をインタビューしたあとに、セット見学をして、最後にプレミアに参加するという取材スケジュールを僕が説明すると、とても興味深そうに耳を傾けてくれた。
「HAWAII FIVE-0」はハワイを舞台にした刑事ドラマだ。“FIVE-0”とは架空の特殊警察部隊の名称で、ハワイが50番目にアメリカに併合された州であることに由来する。かつて「ハワイ5−0」として放送された往年のドラマのリメイクで、人気脚本家コンビのアレックス・カーツマンとロベルト・オーチが製作総指揮を務めている。お馴染みのキャラクターが友情を育んでいくプロセスを盛り込んでいる点は、彼らが脚本を執筆したリブート版「スター・トレック」と同じアプローチ。また、一話完結の犯罪捜査モノでありながら、シリーズを通じたミステリーの要素もあり、その按排(あんばい)は彼らが製作総指揮を務める「フリンジ」と似ている。
僕にとって、このドラマの最大の魅力はハワイそのものだ。ハワイで撮影されたドラマと言えば、もちろん「LOST」が有名だけど、あちらはオアフ島で撮影しながら、オアフ島以外を舞台にしていた。でも、「HAWAII FIVE-0」はそのままオアフ島が舞台だから、観光名所がつぎつぎと出てくるし、観光局から軍隊までが全面協力しているので、普段は立ち入ることができない場所も見ることができる。ハワイファンのぼくは観光ガイド代わりにも利用していて、「HAWAII FIVE-0」に登場するロケ地を書き出す「HAWAII MANIA」という連載までしているほどだ。
ただ、ハワイ好きとして「HAWAII FIVE-0」を楽しむ一方、地元の人がこのドラマをあまり快く思っていないのではないかと心配だった。ハワイの素晴らしさが前面に押し出されている一方で、犯罪捜査ドラマなので殺人事件や強盗事件が毎回扱われることになる。テンポが早く、スケールも大きいので、そのぶん事件も過激だ。毎週観ているうちに、ハワイを凶悪犯罪のメッカと思い込む視聴者が出てくるかもしれず、それは地元の人にとって嬉しくないことだろう。
でも、そんな杞憂は「HAWAII FIVE-0」のプレミアでふっとんだ。週末、ワイキキ・ビーチでは「サンセット・オン・ザ・ビーチ」という名の星空上映会が行われた。砂浜に設置された巨大スクリーンで映画を無料上映するという素敵なイベントで、今回は「HAWAII FIVE-0」シーズン2の第1話が上映された。全米放送前のエピソードが無料で鑑賞できて、しかもキャストやスタッフが参加するとあって、プレミアには1万人を超えるファンが結集。その熱狂ぶりを見れば、ハワイの人々が「HAWAII FIVE-0」を手放しで歓迎していることは明らかだった。この番組はハワイの魅力を世界にアピールするばかりか、雇用も生み出している。彼らにとってみれば、全米人気ドラマを支える一員としての誇りもあるかもしれない。
ますますハワイが好きになってしまった。
■HAWAII MANIA:http://axn.co.jp/program/hawaii5-0/hawaiimania/
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi