コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第14回

2001年2月1日更新

FROM HOLLYWOOD CAFE

スーパーボウルといえば、アメリカ人のスポーツファンにとって一大ビッグイベントだ。1月28日のテレビ中継には、じつに8000万人を越えるフットボールファンがテレビに釘付けになったという。これだけの注目番組だから、コマーシャルの放映権も桁外れに高い。日本でもおなじみの巨大企業のCMがほとんどだが、なかには高額のCM料を払い一発勝負をかけてくる中小企業もある(たとえば、去年はドット・コム系のCMが多かった)。いわばスーパーボウルのコマーシャルで、アメリカで勢いのある企業がわかるのである。

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そんな中「Silence will be broken」というキャッチフレーズとともに、ある映画の予告CMが放送された。そう、「羊たちの沈黙」の続編「ハンニバル」のコマーシャルである。これだけで映画会社が「ハンニバル」にどれだけ力を入れているかわかるというものだ。2月9日の全米公開に向けてCMを大量投下し、街中にはレクター博士のビルボードを張り巡らせた。その効果もあってか、一般の人のあいだで同作の認知度はかなり高く、雑誌やインターネットの投票でも期待度ナンバーワンの映画となっている。しかも監督は、最近「グラディエーター」でゴールデングローブ賞を受賞したリドリー・スコット監督だ。盛り上がらないほうがおかしいぐらいである。

それなのに、ぼくの気持ちは落ち込む一方だ。すでに本編を見てしまったのだからあたりまえの話だが、たとえ見ていなかったとしても、この現象を冷ややかな目で見ていたんじゃないかと思う。なにしろこの続編製作にははじめから疑問を持っていたのだ。「ハンニバル」には「羊たちの沈黙」の監督も脚本家も主演女優もいない。スタジオもプロデューサーも変わっている。トマス・ハリスの原作をもとにしたという点においては同じだが、それでも監督の意志が強く反映されてストーリーは変えられている。つまり、変わっていないのは、レクター博士を演じるアンソニー・ホプキンスだけなのだ。そのホプキンスでさえ、「脚本を読んだとき、わたしには自分なりの考えがなかったわけではないが……」と、仕事と割り切っていることを明かしている(それも、かなり割のいい仕事である)。現在シャロン・ストーンが監督、脚本家、おまけに主演男優に逃げられてもなお「氷の微笑」の続編を作ろうと躍起になっているが、その状態と似ていなくもない(そういえば、同じスタジオだし)。

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そう考えると、このブームも、映画を大ヒットさせたいスタジオと、そのヒットで2001年に弾みをつけたい映画業界と、年末からのアート映画にうんざりしていた娯楽映画ファンの思惑が一致して出来たものに思えてしまう。ぼくがひねくれているだけなのかもしれないけれど、「ハンニバル」のビルボードを見るたびに、テレビ番組を「ハンニバル」のCMに中断されるたびに、そう感じずにはいられない。

断っておくが、「ハンニバル」は見る価値のある作品である。独房から放たれたレクター博士が自由に動き回る姿を見るのは爽快だし、フィレンツェのセットは豪華絢爛だ。リドリー・スコット監督の演出はダイナミックで、なによりクライマックスの「晩餐シーン」がすごい。この衝撃映像を見るだけでも価値があると思う(よくR指定で済んだものだ)。前作とは別の作品だと割り切ることができれば、かなり楽しめると思う。ぼくにはそれができなかったけれど。

筆者紹介

小西未来のコラム

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を選考するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」(http://www.miraikonishi.com)では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。

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