コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第125回
2010年5月18日更新
第125回:「LOST」フィナーレに盛り上がる全米メディア
2010年5月23日、ついに「LOST」の最終話が全米放送される。「The END」と題されたフィナーレは2時間半の放送で、直前に総集編が2時間、放送終了後には深夜のトーク番組「Jimmy Kimmel Live」に「LOST」製作総指揮がゲストとして出演するなど、5月23日は完全な「LOSTデー」となる予定だ。最終話へ期待の高まりとともに30秒のスポットCMの広告料金も高騰しており、「LOST」の昨シーズンの料金が平均21万ドルだったのに対し、いまでは90万ドルに達しているほどだ。
「LOST」の最終話への盛り上がりを反映して、アメリカの新聞・雑誌各紙もこぞって特集を組んでいる。これまで「LOST」を積極的に紹介してきたエンターテインメント・ウィークリー誌は、なんと主要キャラクター10名の顔を個別にフィーチャーしたコレクターズエディションを発行(ちなみに、うちに届いたのはジョン・ロックが表紙のバージョンだった)。他にも、ベストセラーの「フリー」を執筆したクリス・アンダーソンが編集長を務めるワイヤード誌や、バニティ・フェアー誌が独自の視点から「LOST」特集を組んでいる。
個人的に嬉しかったのは、USAトゥデイ紙が一面で総括記事をのせてくれたことだ。「How America Got LOST(アメリカはいかにして『LOST』に夢中になったのか?)」という記事は、異例尽くしの革新的ドラマがいかにして誕生し、生き長らえることができたのか詳細に記している。パイロット版に1200万ドルという史上最高の製作費が投じられることになった経緯や、シーズン6での番組終了を決定したことで息を吹き返したことなど、ファンにとっては既知の情報ばかりだが、「LOST」の偉業が一般の新聞で認められるのは素直に嬉しい。同紙は「LOST」の魅力について、非公式ガイド本を執筆しているニッキー・スタフォードのコメントを引用している。
「パルプ小説というより、高尚な文学作品の重厚さがあるの。この番組を観るときには、頭をフル稼働させなきゃいけない。でも、もし、ハートがなければ、次から次のシーズンへと追いかけることはなかったと思う。結局のところ、わたしは登場人物に惹かれているの」
製作総指揮のカールトン・キューズもその意見に同意する。
「われわれは内容を易しく噛み砕かずに、観客の知性をリスペクトする道を選んだ。このドラマは複雑で、野心的で、ある部分では、あえて曖昧にしてある。こうした点を、視聴者は熱狂的に支持してくれたんだよ」
「LOST」のファンにとってもっとも気になるのは、果たしてファイナルシーズンですべての謎の答えが提示されるかどうか、という点に尽きるだろう。ぼく自身もシーズン6が始まる前は同じ気持ちだったが、最終話まで1話を残したいま、逆にすべての謎の答えが明かされないことを願うようになった。大きな謎についてはすでに大半が明らかにされているものの、最終話ですべてが明かされなければ、解釈の余地が生まれることになる。そうなれば、番組終了後も心ゆくまで「LOST」の余韻に浸ることができるからだ。いまはただ、テレビ史に残るドラマの結末を、リアルタイムで目撃できる喜びに浸りたいと思う。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi